本研究では、希薄窒化物半導体であるGaAsN膜中において、(i)N原子の空間分布を三次元で制御したGaAsN薄膜の作製、(ii)実際のN分布の評価、(iii)N原子の空間分布がN局在準位(E_N)および電気特性に与える影響の解明、の3点が目的である。本材料系は、III-V属化合物半導体のV属原子をN原子に置換することで、SiやGeに格子整合可能しつつバンドギャップエネルギー(Eg)を広範囲(1~2 eV)で制御可能な点が特徴である。これにより、基板に格子整合させた多接合太陽電池や光電子集積回路に期待されている。しかし、N原子の導入による電気特性の急激な悪化が問題となっている。この原因の一つとしてN原子の空間分布の不均一が指摘されているが、N分布を直接観察することが困難なため、特性劣化の関連の完全な理解には至っていない。 そこで本研究では、まず意図的に膜中のN原子の空間分布を三次元で制御することを試みている。三次元制御には、1原子層毎に成長が制御可能な原子層エピタキシー(ALE)法による成長方向のN原子分布制御と、微傾斜基板を利用した表面ステップによる面内のN分布制御を併用する。 昨年度までは、ALE法を用いて傾斜の方向および角度を系統的に変化させた各種の微傾斜GaAs基板上にGaAsN薄膜を作製し、表面ステップの種類および密度がN分布に与える影響を明らかにすることを目的として実験をおこない、Gaステップが表面に多く存在する基板を用いた場合に、膜に取り込まれるN組成が減少する事が見出した。 本年度は、ステップ密度を系統的に変化させた基板を利用することで、表面のステップ近傍とテラス上でのN原子の取り込み量を定量的に明らかにした。さらにこの結果を利用して微傾斜基板上への3次元的に分布を制御した成長を試み、成長方向と[110]方向の2方向への分布を制御した超構造の作製を実現した。
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