研究課題/領域番号 |
20K05347
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
三浦 均 名古屋市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (50507910)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 結晶成長 / 不純物効果 / 微小重力環境 / 数値計算 |
研究実績の概要 |
不純物の存在によって結晶の成長が大きく影響を受けることは古くから知られていた。不純物の含有量がわずかであっても結晶成長に大きく影響することがあるため,結晶成長を考える際には不純物の影響を無視することはできない。近年,結晶成長における不純物効果の解明を目指し,国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」においていくつかの結晶成長その場観察実験が実施された。微小重力環境にて実施されたこれらの実験は,結晶成長における未知の現象の存在を示唆した。しかし,ISSで得られた実験結果は,理論的に十分説明されているとは言えない。本研究では,ISSで得られた実験結果を数値計算によって再現することを通して,結晶成長における不純物効果の理解を深め,その成果を結晶成長学に還元し,結晶成長が関与する諸分野の発展に貢献することを目的としている。 本研究では,「吸着不純物と前進ステップの相互作用というミクロな物理素過程が,結晶成長速度というマクロな物理量にどのように反映されるのか?」を検討する。結晶の表面には原子スケールの階段状の構造(ステップ)があり,ここに原子や分子などの成長単位が取り込まれることで結晶が成長する。環境相に不純物が存在すると,それが結晶表面に吸着し,ステップ前進が妨げられることで結晶成長が阻害される。すなわち,結晶成長における不純物効果を理解するには,ステップのダイナミクスと吸着不純物の相互作用を解明する必要がある。 今年度は,不純物効果を考慮したステップ・ダイナミクスの数値計算プログラムの作成に向けて,結晶表面への不純物吸着過程や吸着不純物とステップとの相互作用をモデル化した。また,数値計算を実行するためのGPGPU計算機を導入した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ISSで実施された結晶成長実験として,Ice Crystal 2プロジェクトの成果に着目した。このプロジェクトでは,過冷却純水中における氷結晶ベーサル面の面成長速度に対する不凍タンパク(AFGP)分子の影響を調べた。その結果,過冷却水中にAFGP分子が含まれている場合,結晶化駆動力が一定であるにもかかわらず面成長速度が周期的に振動する現象が生じること(自発的振動成長),また,面成長速度の最大値はAFGP分子を含まない純水中での値を大きく上回ることが明らかとなった[1]。一般に,不純物は結晶成長を阻害すると考えられている。また,AFGP分子は氷結晶ベーサル面には吸着しにくいと考えられている。参考文献[1]では,ベーサル面に吸着しにくいAFGP分子が,その面の成長を促進するメカニズムとして,ベーサル面のステップエッジに吸着したAFGP分子によるステップ供給機構が提案された。 今年度は,Ice Crystal 2の実験結果を再現しうる不純物効果のモデルを検討した。この実験結果を数値的に再現するために,以下の過程を考慮した不純物効果のモデルを考案した:(i)ベーサル面へのAFGP分子の「弱い」吸着,(ii)弱く吸着したAFGP分子にステップフローが衝突することによる「強い」吸着への変化,(iii)強く吸着したAFGP分子によるステップ供給。 また,本研究計画でもっとも大きな設備備品は,数値計算用のGPGPU計算機である。数値計算プログラム実施環境の整備のため,数値計算用GPGPU計算機として,GDEPデスクトップPC(GWS-i9/4Gカスタマイズモデル)を購入した。
参考文献:[1] Y. Furukawa, et al., Scientific Reports 7:43157 (2017).
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今後の研究の推進方策 |
考案した不純物効果のモデルをステップ・ダイナミクスの数値計算コードに実装し,シミュレーションを実施する。まず,不純物がひとつだけ吸着している場合の成長促進効果について検証する。その後,不純物が脱離吸着を繰り返しながらステップフローと相互作用する場合について計算を実施する。最終的に,溶液中の不純物濃度の時間変化を同時に解くことで,成長速度の振動現象の再現を試みる。数値計算は,導入済みのGPGPU計算機を用いて実行する。得られた計算結果をIce Crystal 2の実験結果と比較し,氷結晶の融液成長におけるAFGP分子による不純物効果の解明を目指す。 実験結果との比較の際は,研究協力者と協議を行なう。協議にはインターネットを介した遠隔会議ツールを積極的に活用するが,必要に応じて直接打ち合わせを行なう。得られた成果は,国内外の学会や研究会で発表し,また,学術論文にまとめて国際的ジャーナルに投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
おおよそ予定通り予算を執行した。小額(2,207円)の次年度使用額は端数である。次年度の予算に組み込み,有効に活用する予定である。
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