本研究は、準安定リン酸カルシウム相であるリン酸八カルシウム(OCP)から安定相であるアパタイト(HAP)への逆方向相転移を誘起することにより、従来不可能であった虫歯領域へのリン酸カルシウム材料の強力接着を成し遂げるものである。 既に研究課題の前半において、OCPからHAPへの逆方向相転移が特定のフッ素イオン濃度条件下で現実に起こることをTEM観察等により証明し、両結晶の構造情報を詳細に検討して逆相転移をモデル化することに成功した。理論とは相いれない準安定相から安定相への相転移現象は、OCPとHAPの(100)面がコヒーレントな性質を持つこと(静的効果)、及びOCPの成長速度がHAPの成長速度より勝ること(動的効果)の相乗効果で発現する、極めて特殊な物理現象である。この現象を利用することで、一度HAPの結晶表面をOCP化してう蝕患部に充填した後に、湿潤環境で再びHAPに戻すことにより、充填剤とう蝕患部との強力な接合が可能となった。本成果により課題研究の目的は完全に達成され、高いIFを持つ国際誌(Acta Biomater.(2021))に発表することができた。 本年度は本研究の発展として、HAPを細胞培養環境でアモルファスリン酸カルシウム(ACP)基板から作成する際に重要な細胞と基板との相互作用、及びACP-HAP転移過程におけるHAPの形成頻度をTEM観察を駆使して調査した。まず、ACPと細胞との相互作用は細胞培養培地中の骨関連タンパク質の濃度により支配されることを確認した。更に、細胞培養環境下でACPからHAPに相転移する際にTEMの電子線照射で転移が急速進行することを発見し、その原因として、照射エネルギーにより融解したACPを母材として、HAPの成長が進行することを突き止めた。この現象に関しては、現在交付を受けている科研費基盤C(23K04606)で引き続き深く探求する。
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