研究課題/領域番号 |
20K05352
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
山崎 雄一 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員(定常) (10595060)
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研究分担者 |
松下 雄一郎 東京工業大学, 物質・情報卓越教育院, 特任准教授 (90762336)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 窒化ホウ素 / スピン欠陥 / イオン照射 / 二次元物質 / 複合欠陥 / ベリリウム / リチウム |
研究実績の概要 |
ダイヤモンド窒素-空孔複合欠陥に代表されるスピン欠陥は、高感度・空間分解能という特長を有する量子センサーとしての応用が期待されている。センサー性能は測定対象との距離に大きく依存する。従来の3次元材料中スピン欠陥では、表面から10nm以下のごく浅い領域に形成された場合、表面近傍で起きるバンド構造の変化によりスピン欠陥の荷電状態が変化、その結果センサーとして機能しなくなってしまうという問題がある。本研究では、この問題を根本的に解決する方法として、2次元材料中新規スピン欠陥を利用することを提案した。2次元材料は表面のみで構成されているため、本質的に上記の問題を回避できる。 本研究の目的は2次元材料窒化ホウ素への室温でスピン操作・読み出し可能な新規スピン欠陥の創製である。研究は実験・理論両面から進める。初年度の研究計画は、実験側は単一空孔の形成およびその光学特性評価、理論側は単一空孔および第二周期(Li~Ne)元素との複合欠陥について、スピン欠陥候補の絞り込みを行うことである。 初年度の成果として、実験側は六方晶窒化ホウ素(hBN)薄膜中に各種イオン照射を行った結果、ホウ素空孔(V_B)の形成およびその光検出磁気共鳴(ODMR)信号の検出に成功した。これはhBN中にスピン欠陥を形成できたことを意味している。なお、本研究提案後に、V_B発見に関する論文が発表されている(2020.2)。今回の結果は、先行研究と一致したものである。 理論側では第一原理計算に基づいた検討の結果、V_Bがスピン欠陥として機能すること、窒素空孔は機能しないことを明らかにした。前者の計算結果も先行研究と一致している。第二周期(Li~Ne)元素との複合欠陥については、全ての組み合わせを理論計算した結果、BeおよびLiがホウ素位置に入ったBe_BおよびLi_Bが室温で動作するスピン欠陥候補であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験側では、研究協力者から供給された高品質hBN微結晶をテープ転写法によりSiO2/Si基板に転写して作製したhBN欠片を試料(膜厚~100nm)として使用した。単一空孔形成のために、イオン注入装置(20-350keV)を用いてN, Ar, Xeイオン照射を試みた。照射対象が非常に薄いことからイオンエネルギーを20keVとし、照射量は1e13-1e17/cm2まで変えた。光学特性評価としてフォトルミネッセンス(PL)、ラマン測定、構造解析としてX線吸収微細構造(XAFS)をそれぞれ行なった。最後にスピン欠陥の判定を行うためにODMR測定を実施した。 実験の結果、全てのイオン種で700-900nmに照射前には観察されなかったPLピークを検出できた。その強度は1e15/cm2前後で最大となり、それ以上の照射量では減少した。ラマン測定から、その照射量領域では構造のアモルファス化を示唆するスペクトルが得られた。照射量としては1e15前後が最適と判断された。また、XAFS測定により、V_Bの直接観察も成功した。最後にODMR測定を行った結果、3.5GHz前後に2つのピークが観察された。PLおよびODMRピークは報告例と一致した。以上から、イオン照射によりV_Bが形成されたと結論された。 理論では、第一原理計算に基づいたスピン欠陥候補の選定を行なった。条件として、スピン数≧1、電子準位ギャップ≧1.0eV、荷電状態=-1,0,+1の3つを課した。単一空孔(V_B, V_N)について、前者/後者はスピン欠陥として機能する/しないことがそれぞれわかった。第二周期元素との複合欠陥については、全ての組み合わせを計算した結果、BeおよびLiがホウ素位置に入ったBe_BおよびLi_Bが室温で動作するスピン欠陥候補であることがわかった。 以上から、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
実験側については、初年度の理論検討によって判明したスピン欠陥候補となりうる複合欠陥、Be_BおよびLi_Bの形成に挑戦する。実験方法は基本的に初年度と同じであるが、使用しているイオン照射装置ではBeビームが出せないため、Liから検討を開始し、Beについてはイオン照射施設を有する機関に所属しているメリットを活用して、施設側とともにビーム形成実験から行う。なお、Beについては他のイオン照射装置(所属機関問わず)の利用も念頭に研究を進めていく。 理論側については二つの研究アイテムを検討する。ひとつは、初年度に見出した複合欠陥候補についてより詳細な計算を行い、発光波長や共鳴電磁波等を求める。これらの情報は実験側で行う欠陥探索の効率を大きく改善するものである。もうひとつは、初年度に引き続き複合欠陥の理論検討を行う。第二周期(Li~Ne)元素までが完了しているので、今年度は第三周期(Na~Ar)元素について理論計算を行う。重元素になるほど、結晶に入った時の影響、例えば結合状態、歪みの導入など、が大きくなるため、現実的な欠陥構造を導出することから検討を開始する。欠陥構造を決めたのちに、初年度と同様の第一原理計算ベースの理論計算を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナにより参加を予定していた学会が中止またはオンライン開催となったため、次年度使用額が生じた。来年度は、引き続き旅費として使用する予定であるが、新型コロナの状況によっては物品費、その他(計算機使用代)に使用する。
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