研究課題
最も使用されているスピン欠陥形成方法であるイオン照射法は、目的のスピン欠陥以外の不要欠陥も形成されてしまう。不要欠陥はスピン欠陥の量子特性を劣化させるため、不要欠陥除去法が必要である。本年度は、高温イオン照射および室温イオン照射+ポストアニールの2つでボロン空孔(VB)形成を行い、光学・スピン特性およびセンサ感度の改善度を比較した。PLおよびODMR信号コントラストの処理温度依存性について、ポストアニールでは600℃でPL信号が消失するのに対して、高温イオン照射では700℃でも信号が観察された。これは、高温照射では、VBの生成と熱処理による消失が同時に進行することで、より高温でもVBが残るためと考えられる。ODMR信号コントラストについては、それぞれの処理において最もPL信号が強くなる温度で最も高いコントラストが得られた。両処理で最高コントラストに差は認められなかった。センサ感度に相当する信号雑音強度比は両処理で最大4倍程度改善された。ゼロ磁場分裂項(ZFS)Eの処理温度依存性について調べた。Eは結晶歪みに関係するパラメータであり、イオン照射による結晶損傷が大きいほどEも大きくなると考えられる。600℃以下では、両処理ともほとんど変化がないが、600℃以上で明らかにEが減少した。これから、高温イオン照射は、導入される結晶損傷量の少ないVB形成方法と言える。ODMR信号コントラストでは優位性は認められなかったが、T2(スピンコヒーレンス時間)等、より影響を受けやすいと推測されるスピン特性を調べることで、高温イオン照射の優位性が示されることが期待される。
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Applied Physics Express
巻: 16 ページ: 032006-1-5
10.35848/1882-0786/acc442