研究課題/領域番号 |
20K05357
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉岡 孝高 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70451804)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フェムト秒光周波数コム / 天文コム / 近赤外 / 系外惑星探査 |
研究実績の概要 |
繰り返し周波数約1.6 GHzの自作Ti:Sapphireモード同期レーザーを光周波数コムとして安定化する際、これまではオフセット周波数を基準RF周波数に安定化し、原子遷移に安定化した単一縦モード半導体レーザーとコムの1本の縦モードを比較して繰り返し周波数を安定化していた。システム全体の複雑さの軽減と単一縦モード半導体レーザーのモードホップ等を回避し、より長期的に安定動作させるため、繰り返し周波数を直接、GPS参照したRF周波数基準に安定化する方式への変更を進めた。また、長期的安定動作の試験として、環境温度や、レーザー結晶の冷却温度の設定の関数として光周波数コムのスペクトルや繰り返し周波数、オフセット周波数の記録を行い、数ヶ月以上の安定動作を阻害する原因の特定を進めた。 また、本研究においてはファブリー・ペロー共振器を用いて上記の超高繰り返し光周波数コムの繰り返し周波数を逓倍し、天文コムとして動作させる設計で遂行している。このファブリー・ペロー共振器による光周波数フィルターにおいてYバンドの波長領域全体を網羅するには、当該波長域で非常に低分散かつ適切な反射率設定の特注ミラーが必要であった。本年度はこの実現可能性を光学メーカーとの議論を通じて探り、理想の分散及び反射率に可能な限り目標値を近づけた設計のミラーを製作した。また、光周波数フィルター特性の劣化につながる空気の分散の影響を除去するために、小型の角型真空容器を製作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Yバンド全域で動作し、サイドモード除去比が十分に大きな天文コムを実現するためには、光周波数領域で等間隔かつ急峻なバンドパス特性を有するファブリー・ペロー共振器が必要であり、このための高反射率かつ低分散のミラーの製作の難しさが従来からの課題であった。本研究で使用してきた超高繰り返し光周波数コムを用いれば、現実的な設計の範疇に入ることが判明したことは重要な進歩である。来年度、製作したミラーを小型真空容器内に設置し光周波数コムを導入することで、所望のYバンド波長域の天文コムは完成するものと期待される。 一方で、数ヶ月以上の期間にわたって光周波数の高い再現性を実現するための研究は継続しており、ハビタブル系外惑星探査の観測を実現するために研究期間内に解決できるよう、注力をする必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で製作した小型真空容器とフィルタ共振器用ミラーを組み合わせて超低分散ファブリー・ペロー共振器を構成し、自作超高繰り返しモード同期固体レーザーから発生させた白色光のうち近赤外領域を切り出して入射することで、Yバンドの大半を網羅する天文コムの発生を確認する実験を行う。必要に応じて、フィルタ共振器前で光周波数が既知の単一縦モードの近赤外レーザーを合波しフィルタ共振器の共振器長の安定化に使用することで、天文コムとして抽出されている光周波数コムのモード番号の把握を容易にする。 さらに、天文台での実際の観測実験で使用できるよう、天文コムとしての超長期の高い再現性を実現する試みを並行して進める。これまでのデータ収集の結果、環境温度の変動を抑えることが有効である可能性が高まっており、コンパクトに抑えているセットアップ全体を囲い、必要に応じて能動的に温度変動を抑えその効果を確かめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
製作した小型真空容器を用いて、超低分散ミラーによるYバンド天文コムの動作波長帯域の試験を行う予定であったが、当該ミラーの設計検討及び製作に当初想定よりも期間を要することとなったため、その試験を次年度に行うこととした。このため未使用額が生じた。 翌年度に上記の試験を行う際、実験系の寸法に合わせた真空部品や光学窓の購入経費に充てることとしたい。
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