繰り返し周波数が非常に高いことにより広帯域な天文コムの実現が容易であることに着目し、繰り返し周波数1.6 GHzの自作モード同期Ti:sapphireレーザーに基づくフェムト秒光周波数コムを堅牢かつコンパクトな可搬容器に収納し、天文台での実際の観測実験で使用可能な長期にわたる高い再現性を実現した。 まず、本光周波数コムが天文コムとして実地で安定動作するかを試験するため、緑色波長領域でフィルタリング共振器を構成した上で岡山天体物理観測所における188 cm望遠鏡に移設を行い、高分散分光器HIDESにおける天文コムの観測を行った。その結果、従来の校正法よりも桁違いに高い分光器の波長校正精度を実現でき、試験時の性能でも視線速度の精度として1.4 m/sを達成可能な校正となることを証明した。これは我が国の天文台においてはじめて天文コムを用いた分光器の校正試験を行った成果となった。 次に、上記のフェムト秒光周波数コムに基づくYバンドの広帯域・高精度な天文コムの構築を進めた。Yバンドの大半を網羅した超低分散ミラーによって構成したフィルタリング共振器に対する空気の影響を除去するため、共振器長を能動制御したファブリー・ペロー共振器を真空容器内に設置することで、所望の特性を実現できることを確かめた。これに光周波数コムを組み合わせることで、Yバンドにおける系外惑星探査に必要な波長帯域にわたってサイドモード除去比の要求性能を満たす、縦モード間隔43.2 GHzの天文コムを安定的に発生させることが可能となった。また、天文コムの繰り返し周波数とオフセット周波数は、研究期間当初の光周波数領域での安定化ではなく、GPS参照可能なルビジウム原子時計を基準とするRF周波数に対する安定化を施した。この比較的簡便かつ環境の擾乱に対して堅牢な構成によって、天文コムとして必要十分な光周波数の安定度を達成可能とした。
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