研究課題/領域番号 |
20K05360
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中西 俊博 京都大学, 工学研究科, 講師 (30362461)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メタマテリアル / BIC状態 / 電磁波の保存 / 時変メタマテリアル |
研究実績の概要 |
電磁波の保存と再生を人工原子系であるメタマテリアルで実現する手法として、これまでの結合共振器型メタマテリアルを用いる方法ではなく、BIC状態(Bound states In the Continuum状態)を動的に変調するという新たな手法を提案し、マイクロ波領域での実験検証を実現することが本研究の目的である。BIC状態の動的変調は構造の導電率変調で実現する。 令和2年度は、BIC状態の切り替え可能なメタマテリアルの設計及び最適化を行った。メタマテリアルの構造の対称性の変調で、共振状態が励起されないBIC状態と、共振状態の励起が可能な非BIC状態を切り替える必要がある。本研究で、スプリットリング共振器の金属と絶縁体を入れ替えた補対構造を2つ並べた構造を単位構造とするメタマテリアルを設計した。2つの構造を非対称にすることで非BIC状態を実現し、対称にすることでBIC状態を実現することができる。補対構造を取ることで、共振状態を励起した際、電磁波が透過するため、多層化に有効である。また、スプリットリング共振器の線幅を狭く取ることで、抵抗損が少なくなり、保存時のロスの低減にも有効である。また、構造パラメータを適切に設計することで、悪影響を及ぼす高次の共振モードの低減も可能になった。 また、時変メタマテリアルの応用の一つとして、電磁波の周波数変換を行うメタマテリアルを研究した。本手法は、従来の非線形光学効果を用いる方法に比べ、変換周波数の調整の自由度が大きく、変換効率が大きいという特長がある。補対型のELC共振メタマテリアルの共振周波数を動的に変調することで、周波数が変換可能であることを電磁界シミュレーションで確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2つのスプリットリング共振器を対にしたメタマテリアルにより、期待通りBIC状態と非BIC状態を切り替えられることが電磁界シミュレーションで確認できた。電磁波の保存と再生のシミュレーションはまだ実施していないが、シミュレーションの手法としては、前年度実施した、メタマテリアルを用いた周波数変換と同じであるために困難は少ないと考える。また、損失の低減方法に関しても、ここで得た知見が活用できると考えている。加えて、これまで行ってきた二酸化バナジウムを導入したメタマテリアルに関する研究成果が電磁波の保存と再生の研究にも役立つと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2つのスプリットリング共振器を対にしたメタマテリアルの対称性制御により、BIC状態と非BIC状態を切り替え、それにより電磁波の保存と再生が実現可能であることを電磁界シミュレーションで明らかにする。また、電磁波保存の効率の最適化に関しても考察する。構造の抵抗損の低減に加え、保存効率の最適化の検討も行う。近年、仮想吸収(virtual absorption)という手法を始め、単層のメタマテリアルに効率良くエネルギーを蓄積する方法が様々考案されている。電磁波の保存と再生にもこれらの手法を応用できると考えている。また、実験的な実証のために、絶縁体金属相転移する二酸化バナジウムを導入したメタマテリアルやスイッチングダイオードを導入したメタマテリアルを研究する。
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