研究課題/領域番号 |
20K05362
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
高林 正典 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (70636000)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 定量位相イメージング / ディジタル組織診断 / 高解像化深層学習 / 分類学習器 |
研究実績の概要 |
本研究は,染色なしで定量的な組織診断を可能にする「定量位相イメージングを用いた病理診断」において,AI技術を適用して当該システムのスループットと診断の正確性を大幅に向上させることを目的とする.具体的には,(1)従来,組織全体の高解像定量位相画像を取得するために狭視野高解像の画像を複数枚貼り合わせる必要があった撮像過程に,低解像画像を高解像画像に変換する高解像化ディープニューラルネットワークを適用し,広視野高解像定量位相画像を瞬時に取得できるようにする.また,(2)定量位相画像から抽出可能な特徴量を利用した組織診断過程に,分類学習器や深層学習を用いることで,複数の特徴量を効果的に組み合わせた高精度識別を行えるようにする. 当初計画では,2020年度および2021年度に(1)に関する研究を,2022年度に(2)に関する研究を行うとしていたが,新型コロナウイルスの流行により,実験が継続的に行えるかという点で先行きが不透明だったため,2020年度は主に計算機で行える検討を優先的に行うようにした.そのため,一部計画の順番に変更が生じたが,今のところ研究全体に遅れは生じないと考える. (1)に関しては,現有の定量位相画像から人工的に低解像化定量位相画像を作成し,それらのペアを利用して,SR-CNNを基盤とする高解像化ニューラルネットワークを構築した.実際に低解像定量位相画像から高解像定量位相画像に変換可能であることを定性的に確認した.本成果によって,2021年度以降に実験で得られた画像を利用した研究にスムーズに移行できる.(2)に関しては,既存のヒト胸部組織の定量位相画像から複数のマーカーを抽出し,分類学習器を用いて良性組織と悪性組織の識別率を求めた.その結果,適当なマーカーの組み合わせによって,単独マーカーを用いるよりも識別率を向上させられることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は新型コロナウイルスの世界的な流行という想定外の事態が起こり,実験の継続的遂行が可能かどうかという点が不透明だったこともあり,ニューラルネットワークの構築や複数のマーカーを利用した組織診断といったソフトベースの研究および実験を見越した準備を先に行うように,研究計画の順番を一部変更した.研究計画全体の遂行という点では大きな問題は生じておらず,概ね計画通り進んでいるといえる. (1)高解像化ニューラルネットワークを用いた定量位相画像の高解像化に関する研究では,現有の定量位相画像と,それを人工的に低解像化した定量位相画像のペアを利用して,SR-CNNを基盤とする高解像化ニューラルネットワークを構築した.当該ネットワークに低解像定量位相画像を入力して高解像定量位相画像に変換可能であることを定性的に確認した.(2)定量位相画像から抽出可能な複数マーカーを用いた分類学習器による分類に関する研究では,既存のヒト胸部組織の定量位相画像から8種類のマーカー(平均散乱自由行程,異方性パラメータ,Disorder Strength,Local Correlation Lengthのマップの平均値および分散値)を抽出し,サポートベクターマシンを用いて良性組織と悪性組織の識別を行った.その結果,適当なマーカーの組み合わせによって,単独マーカーを用いるよりも識別率を向上させることができることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)については,構築した高解像ネットワークの学習データを実験的に取得した画像に差し替えて当該手法の効果を実証し,各種条件(例えば学習に用いる画像の解像度比や学習数,高解像化ネットワークの種類)と変換精度の関係を調査する.(2)については,胸部組織以外の組織(例えば,すい臓や肝臓など)でも複数マーカー利用の有用性を示すとともに,他の分類手法(深層学習等)も検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行により,数値計算系の研究を優先させたため,実験関連の支出計画を変更した.特に消耗品(組織アレイ等)の購入は実験実施直前が良いと考え,今年度は支出を見送った.また,学会のオンライン化の影響で旅費の支出がなくなったため,旅費の支払予定額に変更が生じた.次年度以降は,実験関係の設備,特に今年度購入しなかったステージや各種消耗品の購入費用に充てる予定である.また,学会や学術論文の渡航・参加・出版費用に充てる.
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