研究課題/領域番号 |
20K05364
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
小林 弘和 高知工科大学, システム工学群, 准教授 (60622446)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 幾何学変換 / 光渦 / 軌道角運動量 / 動径モード / 空間位相変調器 |
研究実績の概要 |
軌道角運動量(OAM)を持つ光波であるラゲールガウス(LG)ビームはレーザ加工、光通信、光計測、量子光学など様々な分野への応用が期待されている。LGビームはOAMに対応する方位角モードと、それとは別の自由度として動径モードを有する。方位角モードは物理的意味が明確であるが、動径モードは離散化されたモードとしての物理的な意味やその有用性については未だに未解明な部分も多い。本研究では幾何学的変換を利用してLGビームの方位角モードと動径モードのモード変換技術を確立し、その応用について考える。 本年度は方位角モードの逓倍変換についての理論解析と実験的な変換効率の向上、および分周変換の理論検討を行なった。理論解析については、逓倍変換の精度と効率を様々な角度から比較し、効率の高い実装方法を発見するとともに、入射するOAMモード番号とビーム径の間に変換精度のトレードオフ関係があることが明らかとなった。さらに理論解析で明らかとなった高効率な逓倍変換手法を実際に実験で確認した。また分周変換については変換後のビーム位置を調整することで実装可能であることが明らかとなったため、次年度以降に実験実装する予定である。本研究提案で得た知見を元にして海外の他大学との共同研究も進めている。まずフランス・ボルドー大学のEtienne Brasselet教授との共同研究として、OAMビームを用いた液晶分子の再配光制御の実験を行ない、研究成果はNature Photonicsに採択された。また、申請者と同時期にOAM逓倍変換の実験を実施していたイタリア・パドヴァ大学のGianluca Ruffato助教と共同研究を行ない、OAM逓倍・分周変換の過程で現れるコースティクス(caustics, 光線が重なり合い明るく見える包絡線)についての理論研究成果はOptics Communicationsに採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず方位角モード変換の理論解析として、逓倍変換に利用する位相分布の構成方法を複数準備して、それぞれの変換効率や精度について評価することで、より変換効率が高い手法が明らかとなった。また、逓倍変換が有効に機能するモード番号とビーム半径の範囲についてトレードオフの関係があることも明らかにした。実験では波長633nmのHeNeレーザ光に対して、光渦リターダと呼ばれる素子を用いてOAMビームを生成し、空間位相変調器(SLM)を用いて入逓倍変換を実装した。理論解析で明らかとなった別の手法に置き換えることによって、効率と精度が向上したことを確認した。分周変換については、変換後のビーム位置を入射ビームの中心位置からずらすことにより実装できることが明らかとなった。 ボルドー大学の共同研究においては、拡がりながら伝搬する光ビームが持つ電場の三次元的な振動方向(偏光方向)を用いて、厚さ数十ミクロンの均一配向したネマティック液晶の空間的な配向制御を実現する技術を新たに提案・実証した。本研究ではOAMビームの重ね合わせで生成できる不均一な偏光を有するベクトルビームを用いることで、多様な配向制御が可能であることを実証した。 パドヴァ大学との共同研究においては、OAMビームの逓倍・分周変換とコースティクスの関係を理論的に解析した。光ビームの断面振幅分布を幾何学変換する際には、その変換過程において光線近似の下で振幅値が発散する地点が存在する。実際には有限の強い輝線が観測されるが、この現象はコースティクスと呼ばれる。本研究ではOAMビームの逓倍変換や分周変換の途中過程においてエピサイクロイドやハイポサイクロイドといった特徴的なサイクロイド曲線を描くコースティクスが観測されることを理論的に明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに方位角モードの逓倍変換については精度向上と変換効率の理論解析ができたため、分周変換についての実験実装と精度評価を行なう予定である。また動径モード変換については残念ながら任意のモードに対して有効な変換手法が未だ明らかにできておらず、理論研究の更なる進展が必要である。実験としては、特定の動径モードに対するモード変換から順次実装していく予定である。 ボルドー大学の共同研究においては、OAMビーム(ベクトルビーム)と液晶分子の相互作用を逆に利用して、液晶分子の再配光を別のプローブ光を用いて観測することで、再配向を誘起したポンプ光ビームの特性を評価する光測定器として機能させることを考えている。これは光波の偏光を3次元的に測定する新しいツールとして期待される。特に入射偏光を無偏光状態とすることで、ポンプ光のポインティングベクトル(エネルギーの流れを表すベクトル場)を直接的に可視化できることが理論的に明らかとなったため、実験的に確認する予定である。 パドヴァ大学との共同研究においては、これまでは入射光として細いリング状の強度分布を持つOAMビームを理論計算に用いていた。この場合、コースティクスを形成する伝搬方向の位置と入射光の動径位置が一対一対応することから、コースティクスはある特定の伝播位置でのみ観測可能であった。しかし、入射光を通常のガウシアン分布あるいはラゲールガウシアン分布とすれば、動径方向に広い分布を持つためコースティクスも伝搬方向のある程度の範囲に広がって分布することが予想される。このようなビームの例として多角形の強度分布を持つポリゴンビームなどが知られているが、これをコースティクスの観点から改めて見直すことによって、より柔軟な形状制御が可能になると期待できる。また、並行してコースティクスを実際に観測する実験も実施予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの蔓延に伴う出張制限により次年度使用額が生じた。翌年度も同様の状況が続くと考えられるが、オンラインでの国内学会、国際学会が多く開催されているため、そういった学会への参加費として使用していきたい。
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