研究実績の概要 |
半導体励起アルカリレーザー(Diode Pumped Alkali Laser=DPAL)は,高効率,大出力といった特徴を備えた新しいガスレーザーであるが,研究の歴史は浅く,基礎的な化学反応定数においてさえ信頼できる値が存在しない.そこで本研究は,DPALの未知の化学反応断面積を測定し,DPALの物理をより深く理解するための基礎的データを得ることを目的とする. 2020年度は,レーザー誘起蛍光法によってCsのメタン(CH4),エタン(C2H6)およびプロパン(C3H8)による失活反応断面積,混合反応断面積の取得が可能な装置の構築,および予備実験の実施が達成目標である. CH4とCs蒸気の混合ガスを常温(298K)の状態でセルに封入し,852nmのパルスレーザーで励起して,895nmの蛍光の時間波形を計測した.蛍光の減衰定数はCH4の分圧に対して1次関数で増加し,その傾きがCs-CH4間の失活反応断面積を与える.計測結果は,先行研究 [1]の値とよく一致し,本研究の手法の正当性が示された. 続いて,C2H6の失活反応断面積を同様の手法で測定し,それが,研究代表者が全く異なる手法で得た値[2]に一致することを確認した.これらのことから,本研究の手法による失活反応断面積の計測は確立されたと言ってよい. 最後に,C2H6の分圧を3桁の範囲で変え,蛍光ピーク強度と分圧の関係をシミュレーションプログラムと比較することで,Cs-C2H6の混合反応断面積を計測した.測定結果は先行研究[3]の値によく一致した. [1] M. A. Gearba, Opt. Express 27, 9676 (2019).[2] M. Endo, Opt. Engineering 57, 126104 (2018).[3] G. A. Pitz, Phys. Rev. A 84, 6 (2011).
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