本研究は半導体励起アルカリレーザー(Diode Pumped Alkali Lase=DPAL)の最も基本的な反応である,アルカリ原子とバッファガスの衝突緩和反応および失活反応の反応断面積を計測,DPALの物理の理解に役立てるとともに,研究代表者が開発したDPALの数値シミュレーションの入力データとして活用することで,DPALの性能予測の高精度化に資するものである.本研究ではアルカリ原子にCsを,バッファガスにメタン(CH4),エタン(C2H6)およびプロパン(C3H8)を選定した. 2022年度は,CH4,C2H6,C3H8の3種類のガスをバッファガスに用い,DPALの実験装置を動作させた.このとき,バッファガスの分圧をゼロから2atmまで変え,レーザー出力とバッファガス分圧の関係を得た. 次に,代表者が開発した数値シミュレーションコードに,2021年度に取得した混合反応断面積,失活反応断面積を代入,実験装置と同じ条件におけるレーザー出力を計算させた.計算結果は3種類のバッファガスすべてにおいて,バッファガス分圧の全域において実験結果をよく再現した.したがって計画時に掲げた本研究の目的は完全に達成されたと言える. 加えて,実験を行う過程で,バッファガス分圧とレーザー出力の関係が一次関数で表される領域があることを見出し,DPALのレート方程式に解析解が存在することを発見した.解析解はやはり実験結果とよく一致した.この結果は,測定された反応断面積の正しさを補強するのみでなく,シミュレーション結果との相互比較により,シミュレーションの正しさをも裏付けたものと言える.また,解析的手法は,レーザー装置さえあれば誰でも実行できるので,現在ホットな話題であるカリウムDPALに炭化水素ガスを混合する手法について,解析解から反応断面積を得る方法に道を開いた.
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