研究課題/領域番号 |
20K05368
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
賈 軍軍 早稲田大学, 理工学術院, 准教授(任期付) (80646737)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光ブリーチング現象 / Pump-Probe法 / 電子ーホール再結合 / 過渡透過・反射測定 |
研究実績の概要 |
現在Siフォトニクスをベースとする大規模電子・光集積回路をCMOS技術で実現することが進めている。この集積回路の中で重要な構成要素である高速光スイッチ素子には、高い非線形光学応答を示す材料が必要とされる。本研究課題では、レーザ誘起の光ブリーチング現象を利用し、高速光スイッチング材料の創出を目指す。本年は、様々な薄膜材料を合成し、その光ブリーチング機能の評価に力点をおいて研究を進展させた。研究実績として以下のものが挙げられる。 まず反応性スパッタ法及び分子線エピタキシャル成長法を用いて、間接遷移型SnOと直接遷移型InN半導体薄膜を作製し、その物性評価を行った。ホール測定により、作製したSnO薄膜はp型伝導を確認した。光電子分光法およびX線構造解析によりSnO薄膜中に少量のSnO2とSn3O4相が存在することが明らかとなった。僅かな化学組成変化に対して、SnO薄膜のp型伝導は大きく変化する。これはp型伝導に寄与する格子間酸素と化学組成変動のトレードオフ関係によるのものだと考えられる。以上の研究結果はJournal of Applied Physicsに掲載され、さらに日本応用物理学会・薄膜表面物理分科会の論文賞を受賞した。 次に、本研究課題の基礎である光学ブリーチング機能の評価装置「フェムト秒Pump-Probe過渡透過・反射測定装置」を産業技術総合研究所の八木貴志博士と共同で構築し、作製したInN薄膜およびSnO薄膜の光ブリーチング現象を評価した。SnO薄膜とInN薄膜の過渡透過率は励起光の強度にほぼ比例し、InNにおいては最大6%の増加が測定され、作製した薄膜の光ブリーチング機能があることを確認した。InN薄膜の実験データに基づいて、物性理論を構築し、その光ブリーチングの物理機構および高密度励起する際の電子-ホール再結合機構を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的を達成するためには、フェムト秒領域での超高速分光システムの構築が必要不可欠である。本研究の特徴でもある材料設計には、通常のスパッタリング法および分子線エピタキシャル成長法を用いて、間接遷移型と直接遷移型半導体薄膜を作製する必要がある。今年度はこの目的となる超高速分光装置の構築に成功し、作製した直接遷移型InN薄膜の光ブリーチング機能を評価し、実験データに基づいた物理理論を構築したため、順調に研究が進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は初年度の研究成果を踏まえ、直接遷移型InN半導体よりも光ブリーチングの持続時間が長い、間接遷移型材料の光ブリーチング機能を解明することに注力する。現在、評価装置が常に稼働できる状態であることから、SnOなどの間接遷移型半導体材料を研究対象とし、Pump光の励起密度とProbe光の波長を変化させ、その光ブリーチング現象を測定・評価し研究を進める。更に、物理理論に基づいて、ホット電子の冷却過程、電子―ホールの再結合機構などの評価を通じ、間接遷移型半導体材料における光ブリーチングについて物理基礎の把握に努めていく。特に直接遷移型InN半導体の光ブリーチング機構と比較し、その本質的な差を理解する。翌年度以降は、窒化物や酸化物だけではなく、その他の物質群も対象とし、物質のバンド構造と光ブリーチング機能がどのように相関しているかを研究によって解明する。さらに汎用性がある高い非線形光学応答を示す半導体材料の設計指針の確立も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、昨年度計画していた予算について下記の理由により使用しなかった分を、本年度予算への繰り越しを申請する。 ・顕微鏡レンズの価格が計画より安かった。 ・国内外の学会発表の旅費が不要となった。
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