これまでにダブルフェムト秒光パルス励起水膜からのテラヘルツ波パルスはダブルパルスの相対照射位置及び時間間隔により偏光特性,特に楕円率が系統的に変化することを見出してきた.この機構として,1番目の光パルス(プレパルス)により発生した衝撃波の波面に,2番目の光パルス(メインパルス)が照射されることで放射されるテラヘルツ波の関与に着目した. 水膜ターゲットを用いた場合,水及びその手前の空気中で発生した複数の衝撃波が存在し解析が困難であったため,2021年度に引き続き,水膜は用いず空気中で発生させた衝撃波を用いてテラヘルツ波放射実験を実施した.衝撃波波面にフェムト秒光パルスを照射し,発生したテラヘルツ波の強度及び偏光状態のダブルパルス間隔依存性及びメインパルス照射位置依存性を詳細に測定した.放射されたテラヘルツ波電場は常に衝撃波波面に垂直であった.この実験結果は,2021年度に考案した,衝撃波面近傍での急峻な密度勾配を反映した過渡的拡散電流モデルから予想される結果と一致しており,当該モデルの妥当性が確認された.また,テラヘルツ波強度はダブルパルス間隔により複雑なメインパルス照射位置依存性を示したが,テラヘルツ波強度が衝撃波によって生じた媒質の密度分布を考慮することで上記の過渡的電流モデルにより定性的に説明できることを示した.このことはテラヘルツ波放射分光が衝撃波近傍の密度分布の解析に利用できることを示唆している. 本研究で見出された,高強度光パルス励起衝撃波波面からのテラヘルツ波放射現象は,代表者の知る限りこれまで報告がない.水や空気のような流体と高強度光パルスの相互作用については,これまでレーザープラズマのみが注目されてきた.本研究の発見は,衝撃波と光パルスとの相互作用に関わる新規研究領域開拓の端緒となる可能性がある.
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