本研究では、赤外領域のコヒーレントセンシング技術の開発を目的とした。既にダイヤモンド結晶による高感度化を実証しており、微細構造化によるさらなる高感度化を目指す一方で、発生・検出媒質の固体化という大きな視点に立ち、発生過程に使用する非線形媒質の固体化に先行して取り組んだ。主たる実験を共同研究先の大阪大学へ出張して行う一方、自校にフェムト秒レーザーを設置し、予備的な実験を実施する準備を進めてきた。 前年度に宇都宮大学の協力も得て設置したYbファイバーレーザー発振器とその増幅器(中心波長1035nm、繰り返し周期40MHz、最大出力1W)について、透過型回折格子対を用いたパルス圧縮を行い、自作の自己相関器で評価したところ、圧縮前は約15~20psのパルス幅であった光パルスを約500fsの時間幅に圧縮することができた。 一方、空気プラズマを用いた超広帯域コヒーレント赤外光の発生・検出については、大阪大学にてマルチプレートを用いた圧縮光による赤外光の発生の実験を行い、1-200THzの帯域での発生を達成した。今年度の実験では、特にマルチプレート法で圧縮した光パルスのプロファイルをSPIDER法により測定した。5枚の石英プレートでスペクトルを広帯域化させて、チャープミラーで分散補償した光パルスの時間幅が最短の20fsの時に最も広波長帯域の赤外光が発生することがわかった。また、マルチプレートの透過率の入射光強度依存性を計測し、入射光強度を上げていくと石英による多光子吸収によって透過光強度が減少することを見出し、これがマルチプレート圧縮法で得られるパルス光強度の上限を決めることを明らかにした。さらに、発生した赤外光を使ってPET樹脂の透過スペクトルを測定し、汎用のFTIRで測定したスペクトルと同様の吸収構造を示すことを確認した。これは、本装置の実用化が可能であることを示すものである。
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