研究課題/領域番号 |
20K05373
|
研究機関 | 石川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
佐野 陽之 石川工業高等専門学校, 一般教育科, 教授 (80250843)
|
研究分担者 |
桑原 正史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 上級主任研究員 (60356954)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 相変化 / 光スイッチ / 物理シミュレーション |
研究実績の概要 |
相変化材料GSTを用いた光スイッチ動作を完全に理解するため、光スイッチ動作の時間スケール(数10~数100ns)での実験結果を正しく再現できる「リアルなGST相変化シミュレーションモデル」を作成した。GSTの相状態は、結晶密度ベクトルが「結晶核生成」「結晶成長」「融解によるアモルファス化」の3つの機構によって時間変化するとして表現した。GSTのリアルな物性を表すため、結晶化熱と融解熱を考慮し、熱伝導、電気伝導、誘電率などの物性変化を温度と結晶化度などの関数として考慮した。また、相変化の重要因子である「結晶核生成確率Pn」と「結晶成長速度Vg」について、BurrとPengの2つのモデルを用いた計算を行い比較検討した。GST薄膜のレーザー光加熱による結晶化実験(文献データ)のマルチフィジックス・シミュレーション(光伝搬、熱伝導、GST相変化)を行ったところ、Burrモデルでは実験データに比べて著しく結晶化が早く起こるのに対し、Pengモデルはほぼ実験データを再現した。これにより、PengのPnとVgを用いたGST相変化モデルは実デバイスの相変化シミュレーションに使えることが確認できた。 次に光スイッチの光伝搬に関するシミュレーション方法の検討を行った。光スイッチの構造は、波長1.55μmに対して数10~100倍程度の大きさであるため、電磁波の伝搬・散乱・吸収現象を厳密に計算することは、コンピューターの計算コスト(メモリ・計算時間)の観点から極めて困難である。そのため、散乱・吸収の起こるGST付近では厳密な電磁波伝搬計算を行い、それ以外の領域ではほぼ単純な光伝搬なので「ビームエンベローブ法」を用いるハイブリッドな光伝搬シミュレーションシステムを開発した。大幅に計算コストを減らすことができ、現実的な計算コストで大規模な光スイッチ構造のシミュレーションが可能であることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
相変化材料GSTの相変化シミュレーションモデルの開発を行い、光スイッチの動作時間スケールでの結晶化実験データを再現できるモデルを作成することができた。また、光スイッチ内での光伝搬に関して、GST付近とそれ以外の領域を別々に最適な計算手法でシミュレーションするハイブリッドな手法を開発し、現実的な計算コストでシミュレーションできることが確認できた。このように、光スイッチの総合的なシミュレーションシステムの開発に関する大きな技術的問題を解決することができた。これは、当初の研究計画で予定していた成果である。 第一原理計算による光吸収の小さい相変化材料の探索に関しては、GSTとそれに関連する物質の第一原理計算の文献調査を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
GSTの相変化シミュレーションおよび光スイッチの光伝搬シミュレーションに関して、現有の計算ワークステーション(WS)の能力による制限のため、有限要素法のメッシュを十分細かくとることが出来ていない。来年度は本予算で計算能力の高いWSを購入する予定であり、それを用いてメッシュの最適化を行う。また、両者を統合した「光スイッチの総合的なシミュレーションシステム」の開発を行い、研究分担者と研究協力者が作成した実際に動作している光スイッチについてのシミュレーションを実施し、光スイッチ動作の理論解析を進めていく予定である。また、相変化モデルの改良として、「GST結晶相のfcc状態とhcp状態の区別」や「過冷却」の考慮も検討していく。 ドープGSTの第一原理計算に関しては、まずは純粋なGST結晶とアモルファスGSTについての第一原理計算を行い、電子状態と光学特性について調べる。その後、Seおよび他の元素をドープした計算を順次進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染対策・対応のため、研究打ち合わせ及び成果発表のための出張を控えることになり旅費の支出が当初の予定より大幅に減少した。また、今年度の研究ではシミュレーションシステムの開発が最も重要であり、そのために本研究で使用する有限要素法ソフトウェアに関するアップグレード費用に約42万円支出した。無理のない適正な研究計画の実行とそれに伴う予算執行を行ったため、約24万円を次年度に繰り越すことになった。 次年度は、ソフトウェアのアップグレード及びメンテナンスのための費用と計算用ワークステーションの購入費用として使用していく予定である。また、新型コロナ感染の状況が収束し、研究打ち合わせ及び成果発表のための旅費が必要な場合は支出を検討する。
|