研究課題/領域番号 |
20K05374
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
上原 日和 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (20725329)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 広帯域光源 / 中赤外光源 / 赤外吸収分光 / 光ファイバーセンサー / フッ化物ファイバー / 原子層堆積法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、小型で安価な半導体レーザー(LD)による励起が可能なジスプロシウム系中赤外レーザー光源を開発することである。
令和2年度、ジスプロシウムのLD励起を実現するため、エルビウムとジスプロシウムを共添加したフッ化物ガラス材料を新たに開発し、当該材料から成るダブルクラッド型フッ化物光ファイバーを新たに設計した。このファイバーを利得媒質として利用したLD励起の自然放射増幅(ASE)光源を構築し、波長2.5~3.7 μmに亘る極めて広帯域なASE出力が得られた。 すでにこの段階において、本研究課題の目標は達成された。このASE光源はビーム品質に優れており、光ファイバーとの高効率な結合が可能である。また、本光源の波長領域には、多くのガス分子の吸収線が存在しており、さらに波長3~5 μmは、大気中の光の減衰が小さい「大気の窓」に該当するため、ガスセンシングに有用な光源といえる。
上述の経緯から、令和3年度には、開発したASE光源を利用した赤外式の光ファイバーセンサーの開発を推進した。ジルコニウム系およびインジウム系フッ化物ガラス光ファイバーの側面を研磨することで、エバネッセント場を利用したインライン型の赤外式フッ化物光ファイバーセンサーを世界で初めて実証した。メタンガス並びにグリセリン溶液の濃度センシングにも成功し、本成果は、センサー分野におけるトップジャーナルであるSensors and Actuators B: Chemical誌に掲載された。また、開発したセンサーデバイスは社会実装に有望であることから、JST新技術説明会などで本研究成果を広く一般に公開した。さらに、原子層堆積法(ALD)を用いた、フッ化物ファイバーセンサー上へのナノメートル保護膜の形成技術を確立した。これにより、当該ファイバーセンサーの耐候性が飛躍的に向上し、実用性を高めることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、小型で安価な半導体レーザー(LD)による励起が可能なジスプロシウム系中赤外レーザー光源を開発することである。 令和2年度終了時点で、すでにLD励起ジスプロシウム系中赤外レーザー(ASE光源)を実証しており、本課題の最終目標を達成済みである。なお、申請時は、LD励起でジスプロシウム系の①ファイバーレーザーと②ASE光源の2種類の光源を開発する計画であった。いち早く①ファイバーレーザーの構築を試みたが、利得が低い等の原因で、レーザーの発振には至らなかった。開発した②ASE光源の出力・波長・ビーム特性が想定よりも良好であり、高い学術インパクトと応用可能性が期待できたため、ASE光源の開発に焦点を絞って研究を進めた次第である。 また、この光源を利用した赤外式フッ化物光ファイバーの実証は、極めて新規性・学術的価値が高いものであり、令和3年度以降は、このセンサー開発に取り組んでいる。
上記のことからも、本研究は、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、これまでに開発したフッ化物ファイバーセンサーの高精度化の研究を進める。センサー部にプラズモン構造を付与することで、表面増強赤外吸収(SEIRA)をインラインファイバー上で初めて実証する。これによって、ppmオーダーのメタンガス検出感度を達成する。
なお、令和4年度は、本課題の最終年度である。 「光源開発」→「センサー応用」→「高感度化」という一連の研究成果を取りまとめ、革新的な中赤外レーザー光源の開発に基づいたセンサーデバイスの将来性について展望する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で旅費の支出が想定よりも少なかったこと、フッ化物光ファイバーの購入が想定よりも少なかったことなどが影響した。
令和4年度は、十分な長さのフッ化物ファイバーのほか、半導体レーザー、半導体レーザー電源等の設備を購入し、計画通り執行する。
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