研究課題/領域番号 |
20K05375
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研究機関 | 秋田県産業技術センター |
研究代表者 |
山根 治起 秋田県産業技術センター, 電子光応用開発部, 上席研究員 (80370237)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラズモン / 磁気光学 / メタマテリアル / 反強磁性結合 / キラリティ |
研究実績の概要 |
本研究課題では、光学的キラリティとスピン制御との融合を図ることで、空間および時間反転対称性に係る新たな物理現象の発現ならびに革新的光デバイスの実現を目的としている。伝導電子を介した反強磁性結合とフォトニックバンド構造とを組み合わせることで、磁性/非磁性状態の疑似的アレンジが可能な光共振器を構築する。さらに、プラズモン近接場による局所キラル電磁場の導入により、高度かつ多彩な偏光制御を可能とする疑似メタマテリアルへと発展させ、超高感度キラル分子計測など高性能バイオ化学センサとしての実用化を目指す。 今年度は特に、表面プラズモン共鳴が光磁気物性に与える影響について調査した。その結果、磁化状態に依存して反射光強度が大きく変化する新たな物理現象を見い出した。サブ波長サイズの磁区構造における、偏光変換をともなった光学干渉が原因と推測しており、磁気メタサーフェスとして機能する。さらに本現象については、伝導電子を介した反強磁性結合によるスピン制御機能との融合についても検討を進めており、疑似的な磁性/非磁性状態を利用した疑似メタマテリアルの実現が期待できる。一方、プラズモン近接場による局所キラル電磁場に係る研究内容に関しては、微細加工装置を使った試料作製実験、および、FDTD波動解析法を用いた微小領域光学シミュレーションを開始し、本検討項目に必要となる基盤技術を構築した。最終年度は、上述の磁気メタサーフェスに関する研究成果と組み合わせることで、高度かつ多彩な偏光制御を可能とする新たな高機能光デバイスへの展開を目指す。 なお昨年度実施した、光磁気共振器に用いる磁気光学素子の基礎物性に関する研究成果については、米国物理学協会学術誌(Journal of Applied Physics)に投稿した研究論文がEditor's Picksに選出され、学術的に高い評価を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、光学的キラリティとスピン制御との融合を図ることで、空間および時間反転対称性に係る新たな物理現象の発現ならびに革新的光デバイスの実現を目的としている。研究初年度は、表面プラズモン共鳴が光磁気物性に与える影響について検討し、磁気Kerr回転角の大幅な増強ならびに急峻な応答を実現するとともに、デバイス応用の一例として、水素センサとしての動作確認にも成功した。さらに、光共振器に用いる磁気光学素子の基礎物性に係る研究成果については、米国物理学協会学術誌(Journal of Applied Physics)に投稿した研究論文がEditor's Picksに選出され、学術的に高い評価を得ることもできている。 今年度も引き続き、磁性薄膜における表面プラズモン共鳴に関する検討を進めた。その結果、反射光強度が磁化状態に依存して大きく変化する新たな物理現象を見い出した。サブ波長サイズの磁区構造における、p/s偏光変換をともなった磁気光学的な干渉効果が原因と考えている。本現象については、反強磁性結合によるスピン制御機能の利用についても検討を進めており、疑似的な磁性/非磁性状態を利用した疑似メタマテリアルの実現につながると考えている。一方、プラズモン近接場を用いた局所キラル電磁場に関する研究内容については、秋田大学および千葉工業大学の協力のもと、電子線描画装置を使ったプラズモニック結晶の作製実験、ならびに、FDTD波動解析法による磁気光学シミュレーションに係る検討を開始した。磁気光学共振器の実現に必須の基盤技術であり、研究最終年度は、上述の磁気メタサーフェスに関する研究成果と組み合わせることで、高度かつ多彩な偏光制御を可能とする新たな高機能光デバイスの実現を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、磁性ナノ構造体においてプラズモン共鳴が光磁気物性に与える影響、つまり磁気プラズモニック結晶に関する研究を進める。磁気光学的な共振現象や光の局在化を利用することで、左/右円偏光の切り替えなど、外部磁場による偏光状態の高度な制御を可能とする新たな光デバイスを実現する。反強磁性結合を有する磁性積層膜において、フォトニックバンド構造を実現するため、ナノメートル精度での3次元的な周期構造を構築する必要があり、電子線描画装置を使った微細加工および光学シミュレーションによる理論的なアプローチを進める。本検討項目に関しては特に、効率的な研究遂行が不可欠であり、秋田大学ならびに千葉工業大学に協力を依頼して研究を進める。一方、実用デバイスへの展開については、研究初年度に取り組んだ水素センサに係る研究成果をバイオ計測へと発展させる取り組みを進める。ロックインアンプを使った同期計測によって検知精度の向上を図るとともに、冷却型偏光カメラを新たに導入して溶液中測定が可能な評価システムを構築する。キラル分子計測など具体的な用途を想定した研究遂行により、実用化につながる基盤技術の確立を目指す。 以上の研究成果に関しては、学会・論文発表による社会・国民への積極的な情報発信ならび特許出願による実用化に向けた取り組みを、時機を逸することなく進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大により、学会/研究会への参加ならびに研究協力者との打ち合わせをオンラインで行ったため、当初計画よりも旅費支出等が少なくなり、次年度への繰越金が発生した。 本研究課題を進めた結果、試料の作製には、1nm以下の非常に高精度の成膜技術が必要となっている。現状では十分な精度が得られておらず、既存の成膜装置を改良する必要ある。繰越金は、本費用の一部として活用する計画である。
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