本課題では昨年度までに,パルス伝搬の解析が可能な半導体光増幅器(SOA)のシミュレーションモデル構築と広帯域コム信号の振幅・位相測定手法を確立したが,本年度はこれらを用いてSOAの演算加速器としての利用可能性について検討した. 一般にリザバーコンピューティング等の演算加速器には,分離が難しいデータに非線形処理を施すことで分離可能な形式に変換する機能が要求される.そこで,初期検討として3種類の光短パルスを利得飽和が起こる条件でSOAに入力した際の挙動についてシミュレーションを行い,その出力波形の差異を検証した.入力光短パルスは①帯域幅100-GHz,ロールオフ値0.5のナイキストパルス,②帯域幅100-GHz,ロールオフ値0.8のナイキストパルス,③半値全幅10-psのraised-cosパルスの3種類である.3種類の光パルスは時間波形における差異が小さいが,SOAの動的な利得変化により出力では互いに大きく異なる波形となる事が示された.この結果は,利得飽和SOAの演算加速器への適用可能性を示すものであり非常に意義があると考えている. 次に上記動作結果の光リザバーコンピューティング応用について検討するため,一般的なベンチマーク問題であるSantaFe時系列の予測問題について,光コムのスペクトル成分に入力情報をマッピングした波形をSOAに入力し,その出力スペクトル成分を観測した.観測された出力スペクトル成分は重み係数をかけて結合した後,学習過程では教師データと照合され,予測過程では予測値として出力される.時系列1000点を用いて出力重み係数を学習し,500点を予測動作の検証に用いた.シミュレーション,実験ともに近い出力波形が得られ,精度は高くないものの時系列予測可能な動作条件が存在することが確認できた.これにより,本研究課題で提案した演算加速器の基礎動作実証が出来たと考えている.
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