研究課題/領域番号 |
20K05380
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
立花 優 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (40634928)
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研究分担者 |
阿部 達雄 鶴岡工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (20390403)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オゾン / 放射性核種 / 黒ボク土 / 粘土鉱物 / フミン質 / 有機酸 / 錯形成 / 酸化分解 |
研究実績の概要 |
模擬放射性核種(Cs+, Sr2+)が吸着した黒ボク土をオゾン処理した結果、黒ボク土に含まれるフミン質の酸化分解によるギ酸とシュウ酸の生成を確認した。また、酸素処理では、これらの有機酸は生成しないことがわかった。オゾン処理後、黒ボク土に吸着したFe、Si、およびAlの浸出率の増加も確認できた。ギ酸とシュウ酸の生成とともに黒ボク土からCs+とSr2+が浸出することがわかった。この挙動はギ酸とシュウ酸がCs+とSr2+と錯形成しCs+とSr2+が水溶液側に移行したと推測した。従って、Sr2+とギ酸(もしくは、シュウ酸)との間の錯形成定数(文献値)、Cs+ + HCOO- ⇔ HCOOCs, Cs+ + CH3COO- ⇔ CH3COOCsの平衡反応に基づき、紫外可視分光光度計(UV-1280, Shimadzu)を使って算出したCs+とギ酸(もしくは、シュウ酸)との間の錯形成定数から水溶液のpHに対する各化学種の比率を推定した。その結果、該当するpH領域では、ギ酸セシウム、ギ酸ストロンチウム、シュウ酸セシウム、およびシュウ酸ストロンチウムの生成比率が比較的高くなることがわかった。土壌への放射性核種の吸着能力、その他の安定同位体に対する選択性は、土壌中にどのような放射性核種吸着サイトがどの割合で存在しているかにより決定づけられる。黒ボク土は主に粘土鉱物とフミン質で構成されており、粘土鉱物には少なくとも2種類、フミン質には1種類以上の吸着サイトが存在する。要するに、オゾン処理による黒ボク土からの放射性核種(Cs+, Sr2+)の浸出機構の一つを見出した。すなわち、オゾン処理によってフミン質が持つヒドロキシル基やカルボキシル基が酸化分解する。官能基の減少や生成したギ酸およびシュウ酸がCs+やSr2+と錯形成することによって黒ボク土からCs+やSr2+が浸出する機構が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「なぜオゾンは土壌中に取り込まれた放射性核種(Cs+, Sr2+)を水溶液側に移行させるのか?」という疑問を2022年度末までに明らかにする予定であったが、3つの予測された放射性核種の吸着脱離機構のうち、1つのみしか解明できていない。要するに、粘土層間の拡幅と粘土層間における非膨潤層と膨潤層の境界にある楔形に開いたフレイド・エッジ・サイト(FES)によるCs+とSr2+の吸着脱離機構が十分に検証されていない。現在は、粘土鉱物とCs+(あるいはSr2+)のとの間の吸着脱離機構を速度論的および熱力学的解析手法によって調べている。粘土鉱物周辺の化学的構造も少しずつ明らかとなってきた。より多くの粘土鉱物に応用できる知見を得るため、検討対象の粘土鉱物を3種類(セリサイト・イライト・バーミキュライト)から6種類(前者の3種とベントナイト・カオリナイト・ハロイサイト)に増やした。並行してXRD(MiniFlex600, Rigaku)、27Al-, 29Si-NMR(JNM-ECX500, JEOL)およびFT-IR(IRAffinity-1S, Shimadzu)を使って粘土層間や粘土表面状態の構造解析を行い、Cs+とSr2+の吸着脱離機構との相関も調べている。明らかとなった吸着脱離機構を基にしてオゾン処理と陽イオン交換反応の最適条件を見出し、Cs+・Sr2+汚染土壌の除染効率を評価する。除染した土壌と水の生物化学的評価試験は研究分担者が担当する。 以上により、かなり多くの実験を引き続き行う必要があるが、実験・解析手法は確立しており、遅延気味の関連した成果も着実に蓄積されてきており、また、これまでに得られた成果の一部については学術論文として学会誌に投稿中、あるいは準備中の段階にきている。それゆえ、本年度の達成度としては区分(3)と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的は下記の疑問を解決することである。 1. オゾンはなぜ土壌中に取り込まれた放射性核種(Cs+, Sr2+)を水溶液側に移行させるのか。 2. 海水など、極端に塩濃度が高い環境でも問題なくオゾン処理による土壌からのCs+とSr2+の除染は可能か。 3. 放射性物質汚染土壌の除染処理により発生したCs・Sr汚染水に対する有機複合吸着剤の除染効果は十分か。また、除染水の安全性は生物化学的にどうか。 課題(1)では、黒ボク土に含まれる腐食物質(フミン質)とCs+(あるいはSr2+)との間のオゾンの添加効果におけるCs+とSr2+の浸出機構に関する知見は十分に得られたので、現在のところ、粘土鉱物の表面、粘土鉱物が有する層間およびフレイド・エッジ・サイト(FES)に対するオゾンの影響について調べている。また、Cs+とSr2+の吸着脱離挙動については、速度論的および熱力学的解析法によってCs+とSr2+周辺の化学的環境も次第に明らかとなってきている。並びにCs+やSr2+を含む粘土鉱物の表面およびFESを含む層間構造も徐々に解明されている。この蓄積を活用して、Cs+(あるいはSr2+)および粘土層間双方の化学構造と反応性に関する相関を見出し、オゾン処理と陽イオン交換反応を用いたCs・Sr汚染土壌の効率的な除染条件を決定する。課題(2)では、オゾンと土壌との間の反応に対する海水および陸水成分の影響を調べるため、採水した実溶液を用いた系と特定元素を余分に添加した系で比較検討する。ここではCs-137とSr-85も併用する。課題(2)と並行して実施する課題(3)では、土壌からCs+とSr2+を浸出させた後、クロマトグラフィー法を用いてCs+とSr2+のみを除去する。研究分担者が生物化学的評価試験法を用いて得られた除染水の安全性を調べ、研究代表者が本システムの妥当性を評価する予定である。
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