東京電力福島第一原子力発電所において、近い将来に実施される燃料デブリ回収作業によって炉心が再臨界に達する事態を阻止すべく、臨界近接の兆候を検知する技術の開発が求められている。しかしデブリ体系は、構成要素が規則的に配列する、これまで原子炉物理学が想定してきたような体系と大きく異なっている。そこで、令和2年度において、非対称性を考慮した二領域結合体系における理論的枠組みを構築し、炉雑音解析法が与える未臨界度の推定値と真値との相違を考察した。 令和3年度は、デブリの回収等、体系に摂動が加えられた直後から、炉雑音解析法により得られる未臨界度の推定値がどのような時間的変化を示し、最終的に真値が得られるまでにどの程度の遅れ時間が必要となるかを評価した。しかし令和4年度は、予定していた京都大学臨界実験装置を用いた実証実験は実施できず、情報収集のための学会参加に止まった。現在、同装置では平成28年の核セキュリティ・サミットにおける日米共同声明に基づく燃料低濃縮化プロジェクトが進行中であるが、それに係る許認可審査が当初の予定(令和3年度完了)を大きく超えて長引いてしまい、運転停止状態が継続することとなったためである。従って、同装置を用いず、天然ウランを用いた代替実験体系を用いる実証実験に切り替えることとし、本補助事業の実施期間を1年間延長する手続きを取った。 そこで令和5年度は、天然ウランと実際の作業現場でも使用される低濃縮ウランを用いた代替実験体系において、それまでに整備した光ファイバー検出等を用いた実証実験を実施した。燃料集合体の数を調整することにより、体系の実効増倍率は0.48から0.72まで変化させ、炉雑音測定法により実効増倍率を測定した。その結果、中性子スペクトルが柔らかい体系において、実行増倍率の計算値と実験値の差異が大きくなるという新たな課題が抽出された。
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