研究課題/領域番号 |
20K05383
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
佐藤 治夫 岡山大学, 自然科学学域, 准教授 (50421615)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 地層処分 / 緩衝材 / ベントナイト / モンモリロナイト / 膨潤応力 / 膨潤力 / 温度依存 / 熱力学 |
研究実績の概要 |
高レベル放射性廃棄物は、地下300m以深の地層中に坑道を掘削し、人工バリアなどの多重バリアシステムを構築して埋設される(地層処分)。地層処分のバリアシステムは、内側から、ガラス固化体(廃棄物)、オーバーパック(金属容器)、緩衝材、岩盤より構成され、ガラス固化体から緩衝材までが人工バリアである。埋設後、ガラス固化体からの崩壊熱により人工バリア中に温度分布が発生し、岩盤中に放熱される。また、周囲からは地下水が侵入し、緩衝材中を移動すると共にやがては飽和する。人工バリアの内、緩衝材は天然の粘土であるNa型ベントナイトが使用される。ベントナイトは、水と接触すると膨潤し、周囲の隙間をシールすると共に水の流れを抑制する。このように、緩衝材中では再冠水過程で温度分布と共に水分分布が発生する。この水分分布は、緩衝材中で膨潤応力分布を引き起こすが、温度変化の影響について増加する実測値もあれば、低下する実測値もあり、良く分かっていない。 令和3年度は、緩衝材として研究されているNa型ベントナイトの膨潤特性に及ぼす温度の影響について、膨潤特性と密接に関係する膨潤力測定(メスシリンダー法)を継続した。温度をパラメータに測定し、純水系でのNa型ベントナイトとベントナイトの主成分であるNa型モンモリロナイトのデータを取得すると共に、活性化エネルギーを取得した。また、従来の熱力学モデルを発展させ、温度の影響を解析するためのモデルを開発した。更に、蒸気圧法により、含水比と温度をパラメータにNa型モンモリロナイトの熱力学特性の測定を開始し、一部データを取得すると共に、開発したモデルを適用し、温度の影響を解析した。これらと並行して、相対湿度を測定するための測定セルを製作した。また、Na型モンモリロナイトの層間中のNaを全てCaに置換し、Ca型モンモリロナイトを調製した。得られた成果の一部を外部発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、純水条件でのベントナイト(Na型ベントナイト)の膨潤力の温度依存性(25~70℃)に関する測定を継続し、一部のデータ(膨潤力の活性化エネルギーなど)を取得した。また、ベントナイトの膨潤応力に及ぼす温度の影響を解析するための熱力学モデルを開発すると共に、蒸気圧法により、含水比と温度をパラメータに、Na型モンモリロナイトの層間水の熱力学特性の測定を開始し、一部、実測データ(水の活量、相対部分モルGibbsの自由エネルギー、相対部分モルエンタルピーなど)を取得した。これまでに得られた実測データについて、文献データを含めて、開発した熱力学モデルに適用することで、Na型ベントナイトの膨潤応力に及ぼす温度の影響について解析し、標準温度(25℃)と60℃(旧核燃料サイクル開発機構(現原子力機構)が公表した、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する技術報告書(第2次取りまとめ)におけるレファレンスケースの設定温度)における影響の程度について議論した。開発したモデルを含めて、これまでに得られた成果の一部について外部発表した。 これらと並行して、蒸気圧測定に代わる方法として、相対湿度と温度を測定するための、センサーと容器一体型の密閉アクリル製の測定セルを製作し、純水を用いた予察実験(純水系で温度と相対湿度を測定し蒸気圧曲線を確認するための実験)を開始した。また、Na型ベントナイトがCa型ベントナイトに変質・変化した場合も想定し、Na型モンモリロナイトの層間中のNaを全てCaに置換させる技術を活用することでCa型モンモリロナイトを調製し、含水比と温度をパラメータとした蒸気圧測定(相対湿度と温度の測定)を行うための準備(室温条件での水蒸気の吸着)を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
膨潤力測定を継続する。現在、測定中のNa型に加えて、Ca型ベントナイトやモンモリロナイトについても、温度依存性や水質の影響に関するデータを取得する。また、密度分布を測定し、実測が困難であった低密度での膨潤応力を測定する手法についても検討する。 次に、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトの層間水の熱力学特性について、製作した測定セルを用いて、含水比と温度をパラメータに蒸気圧(相対湿度)測定を実施し、Na型とCa型モンモリロナイトの層間水の熱力学パラメータを取得する。実測データと開発した熱力学モデルにより、膨潤応力に及ぼす温度の影響について検討する。 データ測定と並行して、熱-水-応力連成モデルについて検討する。従来、緩衝材中の熱の移動は、熱伝導率から導出した熱拡散係数により解析していたが、熱拡散係数については、ベントナイトの密度、水分量、温度の影響について調査検討し、モデル化した。また、緩衝材中の水分移動については、水蒸気と液状水の混合体での移動を考慮した水分拡散係数により解析していたが、水分拡散係数についても、ベントナイトの密度、水分量、温度の影響について調査検討し、モデル化した。これにより、熱-水連成プロセスまでモデル化できている。これに、膨潤応力のプロセスを連成させる。膨潤応力は、水分分布と温度分布に連動して変化することから、これまでに不飽和と飽和条件に対して構築した熱力学モデルに、温度の影響を解析することができる熱力学モデルを適用し、モデル化する。これらの連成解析を、フルスケールの人工バリアを想定し、円筒座標系半径方向について数値解析により、オーバーパック表面から岩盤まで解析するための解析ツールを整備する。 連成モデルの検証は、地下350mの坑道(日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センター)で実施されている人工バリアの原位置試験で得られたデータに基づいて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験装置の製作や設備・器具類の整備については、今年度(令和3年度)までにほぼ予定通り進めることができたものの、昨年度(令和2年度)から発生し、現在も継続している、新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大防止のため、国内外の学会や国際会議等へ出張する機会がなかった(全てonlineで実施)。次年度以降、状況等を考慮しつつ、現地で開催される学会や国際会議での成果発表を積極的に行う予定である。
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