研究課題/領域番号 |
20K05385
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
羽倉 尚人 東京都市大学, 理工学部, 准教授 (00710419)
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研究分担者 |
渡部 創 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 核燃料・バックエンド研究開発部門 核燃料サイクル工学研究所 環境技術開発センター, 研究副主幹 (40446399)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | PIXE / 波長分散型分光システム / 輝点重心処理 / 超解像処理 / 画素ずらし |
研究実績の概要 |
本研究における手法の特徴は、CCDイメージセンサーで取得した特性X線の輝点に対し、3つの画像処理技法(重心処理、超解像処理、画素ずらし)を駆使することで、得られた輝点の空間分解能を飛躍的に向上させ、結果としてエネルギー分解能を飛躍的に向上させるという点にある。現有のCCDイメージセンサー(浜松ホトニクスC7041)と密封放射線源(Fe-55)を用いた実験により、線源からのX線の輝点画像を取得することができることを確認し、これらの輝点が複数画素にまたがった状態で検出できることを確かめることができた。複数の画素にまたがった形で輝点を取得可能なことが明らかになったことで画像処理技法の適用による高エネルギー分解能化が可能であるという見通しを得た。これらの測定は、2020年度に製作したHe雰囲気下での実験用チャンバ内において実施した。2021年度には、ここでの検討の結果を踏まえて、イオンビームラインに設置する真空用のチャンバを新たに製作し、実験を行っていく計画である。この真空用チャンバの詳細な仕様の検討を行った。 ここで開発する波長分散型PIXE分析システム(WDS-PIXE)と比較することを目的として、イオンビーム照射に伴って発生する可視光の測定により化学結合状態の差異を検出することが可能な手法である荷電粒子誘起発光分光(IBIL:Ion Beam Induced Luminescence)のポートを整備した。加速したイオンビームをEu-NTAアミド錯体試料に照射し発光を測定した。これらの発光はEu周りの配位子やその対称性に敏感であり、錯体構造解析に寄与できると期待している。現在、広域X線吸収微細構造(EXAFS)や量子化学計算と組み合わせた錯体構造評価を進めている。 上記の研究成果は2021年3月に開催された応用物理学会の第68回春季学術講演会において報告した(16p-Z34-2)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CCDイメージセンサーを用いた密封放射線源(Fe-55)のX線による輝点を取得すること、そして、得られた輝点が画像処理技法の適用にふさわしい、複数画素にまたがった形での分布を示すかどうかを確かめることといった2020年度の主要な目的は達成することができた。これらの実験は、He雰囲気下において、CCDと線源を配置し、データの取得を行う必要があったが、専用の実験チャンバを製作し、順調に実験を進めることができた。 現有の平板結晶LiF(200)については、長期間にわたり湿度や温度の管理されていない状況で保管されていたことを踏まえ、今後の実験に耐えうるかを確認する必要があった。そこで、研究代表者の所属する東京都市大学ナノテクノロジー研究推進センターの所有する複合X線構造解析システム(Bruker AXS,D8 Discover)を借用し、結晶の分光性能の確認を行った。その結果、使用に耐えうることを確認した。 He雰囲気下実験用チャンバを用いて、Fe-55線源、平板結晶LiF(200)、CCDイメージセンサーを配置した、分光されたX線の輝点取得に関する実験も年度内に実施することを計画していたが、実験中にCCDイメージセンサーに不具合が生じ、製造メーカに状態の確認を依頼しなければならなくなり、分光された輝点の取得実験については先送りせざるを得ない状況となった。 本研究で開発するWDS-PIXEシステムにて最終的に分析を試みる一例としているEuを含む錯体試料の分析に関しては、荷電粒子誘起発光分光(IBIL)による実験を行い、試料からの可視光の発光の測定に成功している。 2020年度に得られた研究成果については、応用物理学会の第68回春季学術講演会において報告した(16p-Z34-2)。また、2021年10月に予定されている国際会議(IEEE NSS&MIC)においても成果報告を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究成果により、X線の輝点をCCDイメージセンサーにより画像処理技法の適用が可能な形で取得できることが確認できたので、次の段階として、真空容器の製作に取り掛かり、イオンビーム実験に向けた準備を進めていく。製作する真空実験用チャンバでは、WDS-PIXEの測定に加えて、既存のイオンビーム実験用分析チャンバにて測定していたエネルギー分散型PIXE(EDS-PIXE)や荷電粒子誘起発光分光(IBIL)の測定が同時に行える仕様とする。また、X線の集光効率を極力上げるという観点から、試料とスリット、分光結晶、CCDイメージセンサーの配置を可能な限りコンパクトに設計する。従来型の波長分散型分光PIXEシステムでは、分光結晶とCCDイメージセンサーの距離を極力離すことによりエネルギー分解能を高める工夫をしていたが、画像処理技法の適用によりエネルギー分解能の劣化を防ぐとともに、むしろ向上させる方向にすることが本研究の最大の特徴であり、その特徴の実証をしていく。 IBILとの同時測定により、WDS-PIXEとIBILの適用範囲について比較検討し、WDS-PIXEの有効性を明らかにしていくことを計画している。また、同一の試料に対し、EXAFS測定などの別の手法での測定を実施してくことで、多面的にデータを取得し、その点からもWDS-PIXEの有意な点を明確にしていく。 2020年10月には「独立基盤形成支援」を交付いただけることになったので、有効に活用し、研究の推進を図り、国内外の学会発表や論文投稿という形で研究成果の社会還元を行っていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度途中で「独立基盤形成支援」を頂くことができるようになったため、増額分の使途について研究の進捗とより最適な使用方法について検討した。その結果、本研究課題の当初計画において、2年目にあたる2021年度に予定していた実験用チャンバ製作の部分に本支援予算を積み増すことが最適な判断であると考えたため、次年度へ繰り越しすることを決定した。
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