研究課題/領域番号 |
20K05386
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
馬田 敏幸 産業医科大学, 教育研究支援施設, 准教授 (30213482)
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研究分担者 |
大津山 彰 産業医科大学, 医学部, 准教授 (10194218)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トリチウム / 低線量率被ばく / 発がん高感受性モデルマウス / 遺伝子変異 |
研究実績の概要 |
本研究では、発がん高感受性モデルマウス(ApcMin/+マウス)を用いてトリチウムβ線による低線量率被ばくの発がんリスクの評価を目指している。 2020年度はトリチウム水の小腸に対する吸収線量を、臓器の燃焼水のトリチウム濃度より正確に求めた。ApcMin/+マウスは幼児期の放射線(X線)被ばくで小腸の発がんが報告されている。そこで生後2週齢のApcMin/+マウスへ89MBqのトリチウム水を腹腔内接種して、2時間後、1日後、2日後、4日後、7日後、12日後にマウスを解剖し、小腸と脾臓を採取し重量を計測後すぐに冷凍した。後日、トリチウム濃度の低い経過日数の大きい臓器から順に燃焼装置で燃焼し、燃焼水を回収してトリチウム量を定量した。その結果、幼児期の小腸と脾臓でのトリチウム水の生物学的半減期は、それぞれ1.95日と1.83日であった。これらの結果をもとに小腸と脾臓の吸収線量を求めたところ、7日間で小腸の吸収線量は1.7Gy、脾臓の吸収線量は1.6Gyと推定された。 トリチウム水暴露実験では、2週齢(体重が6から8グラム)で90MBq(1週間で1.7Gyの被ばくに相当)のトリチウム水を腹腔内に1回接種し、27週齢まで飼育して小腸腫瘍の発生を調べた。その結果、小腸腫瘍数はトリチウム水投与群が非投与群に比べて有意に増加した。さらに腫瘍の一部からDNAを抽出し、Mitマーカーを用いてLOH解析をおこない、遺伝子変異を調べた。現在のところ、トリチウム被ばくによる特徴的な遺伝子変異は検出されていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
低線量率ガンマ線による小腸腫瘍の形成実験が先行して動いていたことによる、発がん高感受性モデルマウス(ApcMin/+マウス)の学内導入のための時間を要さなかったことが大きく寄与している。 これまでの実験動物へのトリチウム水投与実験の経験から、飼育中のマウス管理及び放射線管理におけるトラブル等の予期しない事象が起こらなかったことも計画以上に進捗していることに寄与していることが考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、発がん高感受性モデルマウス(ApcMin/+マウス)を用いてトリチウムによる低線量率ベータ線被ばくによる小腸腫瘍からDNAを採取し、遺伝子変異解析を行い、発がん機構の解明とリスク評価することが目的である。今後は以下のように研究を進めていく。 1) B6-ApcMin/+マウスとC3H野生型マウスのF1マウス(小腸腫瘍の発生数が減少することがわかっている)を準備し、トリチウム水暴露実験に供する。 2) 2週齢のC3H/B6-ApcMin/+ F1マウスに、0.5Gyと1.0Gyの内部被ばくに相当する放射能のトリチウム水を腹腔内に投与する。 3) 27週齢で、体重、脾臓の重量、リンパ球数、血小板数、ヘモグロビン値ならびに小腸・大腸の腫瘍数を調べる。 4) 腫瘍から一部の細胞を採取し、ゲノムDNA を抽出する。18 番染色体の複数のMit マーカーに対するPCR プライマーでDNA フラグメントを増幅し、バイオアナライザーでLOH解析を行う。トリチウムによる遺伝子突然変異型を解析する。 5) これらのデータを非照射及びγ線低線量率シミュレーション照射したマウスの結果と比較して、トリチウムに固有の突然変異が生じるかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ApcMin/+マウスを用いた低線量照射実験が先行して行われていたので、学内導入に新たな費用が発生しなかった。また、コロナ禍のために旅費を使用することが出来なかった。
今後の使用計画 当初の計画よりもさらに低線量域でのトリチウム水暴露実験を大規模に行う。旅費についてはコロナ禍の終息状況次第である。
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