放射性物質は固体表面で吸着や脱離など反応を繰り返しながら移動をし得る。従って、環境中などにおける放射性物質の移動のし易さやし難さ(移動性)を議論するためには、放射性物質が固体表面で吸着した状態の分子構造や安定性や時間的変化などの理解が重要になると考えられる。本研究では放射性物質が固体表面で形成した吸着錯体について研究し、その化学的状態と移動性の関係を明らかにすることを目指した。放射性物質の代表として本研究ではウラン(ウラニルイオン)を対象とした。また、放射性の実験であることを考慮して、実験測定を出来る限り簡易に行えるように、主に顕微蛍光分光法を用いることによって、微量な溶液試料のみを用いて実行可能な実験測定法を考案した。1年目は薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートの固体表面上におけるウラニルイオンとユウロピウムイオンの吸着性と移動性について実験結果をまとめて論文を掲載した。2年目はシリカゲルやアルミナ表面上の試験を行った。これらの固体表面上においてウラニルイオン存在下ではユウロピウムイオンが広がり易くなる結果を得た。また蛍光寿命測定を行い、広がった場所に依存して異なる化学形態を形成していることを示唆する結果を得た。3年目は滴下前の溶液のpHなどを液性を調整して研究することを目指した。しかし、固体表面上に滴下前の溶液溶存種の数や状態が予想以上に複雑でこの解析や解釈に時間を費やした。そこで吸着状態と移動性の関係性を明らかにする前に溶液状態と吸着状態の関係を明らかにすることに研究の方針を転換した。総じて本研究により、顕微蛍光分光法を用いた放射性物質の吸着状態や移動性に関する情報を得る研究を新たに展開することができた。今後、ウラン以外の様々な放射性元素に対しても研究の展開が期待される。
|