研究課題/領域番号 |
20K05390
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
相馬 康孝 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究職 (90832402)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高温高圧水 / すき間 / ステンレス鋼 / 電気化学 |
研究実績の概要 |
本研究は、軽水炉環境に代表される高温高圧水中におけるステンレス鋼の応力腐食割れ(SCC)の本質が、き裂内部における「酸化(腐食)の局在化」にあり、腐食の局在化は割れ内部などの狭小部(クレビス部)に形成される腐食性の高い環境(クレビス環境)がもたらすという考えのもと、クレビス環境を、各種電気化学測定が可能となるマクロスケールにて再現し、腐食の局在化挙動に及ぼす合金組成(Cr及びMo)の影響を明らかとすることを目的としている。 令和4年度は前年度で整備した装置、及び合金試料を用いて、クレビス模擬環境における電気化学試験を実施した。クレビス環境はすき間内外の酸素濃淡電池を駆動力として形成されることから、その腐食性は外界溶存酸素濃度レベル(及び不純物濃度)により変化すると考えられる。そこで本年度は別の実験により導いた2種類の環境、すなわちクレビス模擬環境I(外界溶存酸素濃度が30ppb程度の場合に相当する、溶液導電率約160μS/cm、pH約4.2、Cl-濃度約2×10-4 mol/dm3を満たす環境)、及びII(外界溶存酸素濃度が300 ppb程度の場合に相当する、溶液導電率約380μS/cm、pH約4.4、Cl-濃度約2×10-4 mol/dm3を満たす環境)とした。なお、いずれの環境も温度、圧力はそれぞれ288 ℃、8 MPaとし、溶存水素濃度約10 ppbとした。各種試験片の分極曲線を取得した結果、以下のことが分かった。(i)クレビス模擬環境I、IIにおいては共にCr濃度(16.5から25 wt.%)にかかわらず局部腐食はなく、-0.4V付近に小さな電流ピークを示す不働態型の分極挙動を示す。(ii)-0.4V付近のピーク及び不働態維持電流密度共にCr濃度の上昇ととともに低下する。(iii)クレビス模擬環境IよりIIの方が腐食性が高いため、同じCr濃度であっても電流値は全電位域にわたって高く、また後者の環境の方がCrによる溶解抑制効果がより顕著に見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クレビス模擬環境における電気化学データ取得に成功したこと、及びそのデータは十分な定量性を有し、かつ合金元素の効果が事前予測及び過去研究と一致したことから、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、令和3年度と同様の手法で電気化学挙動に及ぼすMoの効果を調べる。また、より過酷なクレビス模擬環境III(外界溶存酸素濃度30 ppm付近に相当し、溶液導電率約1600 μS/cmとなり、粒界局部腐食の発生が予測される環境)において、各種合金元素の影響を調査する予定である。当該環境においてはステンレス製の装置自体に与える影響を評価しながら実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度に購入を予定していた物品について、当初計画に比べて価格が高かった点から物品購入計画を見直したことにより、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、次年度分経費と合わせて、試験に係る物品購入等に使用する予定である。
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