研究課題/領域番号 |
20K05392
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
小宮 一毅 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第一部電気電子技術グループ, 副主任研究員 (40578001)
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研究分担者 |
武内 陽子 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第一部電気電子技術グループ, 副主任研究員 (40780987)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ガス電子増幅器 / 中性子 / 熱中性子 / 高速中性子 |
研究実績の概要 |
今年度は、広帯域なエネルギーの中性子を変換可能な変換膜の構造設計とその変換膜の基礎 データの取得を中心に研究を推進した。 シミュレーションの結果、高速中性子と樹脂変換部によって発生する陽子が同位体ボロン膜(10B)を透過する可能性が示唆された。そこで、当初予定していた熱中性子を変換するための10Bと高速中性子を陽子に変換するPET樹脂部を平面上に交互に配置するモザイク構造の他に、プロセス的に単純である積層型変換膜の開発を行った。積層型変換膜の構造は高速中性子を陽子に変換するPET層(約0.1mm厚み)とガス電子増幅器(GEM)内の電位を与えるためのアルミ層(約100nm厚み)と熱中性子を変換するための10B層(約1000nm厚み)からなる変換膜である。この変換膜は、ECRスパッタリング装置を用い、0.1mm厚のPETフィルムにアルミ層、10B層をΦ100mmサイズで成膜し試作を行った。 この変換膜をGEM検出器のカソード部分に設置をして放射性密封線源(カリフォルニウム252)を用い評価をおこなった。熱中性子はポリエチレン(PE)を減速材として用い明瞭な熱中性子イメージングの取得に成功した。また、高速中性子は、減速材を用いず評価をおこなった。高速中性子では熱中性子ほど明瞭なイメージを得ることは出来なかったが、高速中性子を検出していると思われるイメージングを得ることができた。 以上の結果より、高速中性子と熱中性子で画質に違いはあるものの、同一変換膜で広帯域の中性子エネルギーでイメージングが可能であることを見出すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、同位体ホウ素(10B)とPET樹脂構造のモザイク構造の変換膜は、10Bのリフトオフプロセスにおいて湿式で行うため、10B膜の膜質変化の懸念があった。また、高速中性子を陽子に変換のため樹脂フィルムを用いている。このため、湿式プロセス後の乾燥工程において、高温にすることが出来ない。そこで、モザイク構造のプロセス設計と同時に、よりプロセスが簡単である10B膜と樹脂フィルムの積層構造を持つ変換膜を考案し検討を行った。この変換膜を放射性密封線源(カリフォルニウム252)を用い評価をおこなったところ、各エネルギーの中性子画像を取得でき装置開発に目途が立った。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定をしていたモザイク構造についてプロセスの設計・評価を行っていく予定であるが、製造プロセスがより単純である積層構造の変換膜について、評価を行っていく予定である。特に、積層構造の変換膜では、熱中性子と高速中性子で中性子の変換効率やイメージングの画質で大きな違いがある。これは、熱中性子に比べ、高速中性子の速度が速くガス電子増幅器の電極配置構造等が最適でない。今後、電極配置構造や電離ガスの組成などの最適化を行い熱中性子・高速中性子共に鮮明なイメージングの取得を目指す。 また、評価方法も現在は、密封型放射線源を用いているが、中性子のフラックス量が少なく画像取得に時間がかかるため、加速中性子線源の使用を検討していく。 ただし、コロナウイルス感染拡大の影響を受け、本事業に係る出張の取り止め及び在宅勤務の実施等、実験が影響を受ける可能性があり、状況によっては延長を検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大の影響を受け、物品購入見送り、在宅勤務の実施により一部実験が遅れていることに加え、当初予定していたモザイク構造に比べ、構造・プロセスの面で単純である積層構造を優先し実験を行ったため当初予定していた予算に比べ支出金額が少なくなっている。ただし、次年度以降でモザイク構造のプロセスの確立・評価を目指しており、予算については予定通り消化していく予定である。
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