研究課題/領域番号 |
20K05399
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
楠本 成寿 京都大学, 理学研究科, 教授 (50338761)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 間隙率 / 重力異常 / 重力偏差 |
研究実績の概要 |
本研究では,重力探査により,間隙率分布を直接推定する手法とそれを効率よく実施するための最適フィルタの開発を目指している。具体的には,①密度と間隙率の関係を明らかにすることで,重力異常から間隙率分布を逆解析により推定する方法の考案と,②本手法の適用に有用であると思われる浅部密度構造に起因する重力異常を抽出する最適フィルタの設計についての研究である。 昨年度(2020年度)は,上述の①のうち,間隙率を介した岩盤の密度構造と重力異常の理論的関係を示した。また②の浅部密度構造に起因する重力異常を抽出する最適フィルタの設計手法の基礎として,重力異常のパワースペクトルから原因層の平均深度と周波数帯を自動で推定する方法を開発した。 本年度(2021年度)は,上述の間隙率を介した岩盤の密度構造と重力異常の理論的関係を富山県に位置する弥陀ヶ原火山地獄谷で観測された重力異常に適用した。その結果,火山性ガスや水に起因する低密度域は,周辺の母岩より0.06-0.35 程度大きな間隙率になることが示された。地熱地帯での既存の坑井データに基づく有効間隙率分布や密度-間隙率の関係と比較を行ったところ,本手法で推定された間隙率は現実的な範囲にあることが示された。また同地域で2016年より実施していた水準測量による地盤変動の力源推定を行ったところ,高間隙率領域にクラック状力源を仮定することで観測された地盤変動が説明されることが示された。パワースペクトルを用いた重力異常の原因層の平均深度自動推定手法については,従来の方法(手動による推定)との差異や推定結果の検証等を行うため,複数地域の広域重力異常データに適用した。その結果,手法の違いによると思われる差異が生じ、それは意外と大きなものであることが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,昨年度導いた間隙率を介した岩盤の密度構造と重力異常の理論的関係のうち,(1) 母岩とターゲット(重力異常の原因となっている物体)の構成物質が同じで間隙に入る物質と母岩の密度差が重力異常の原因となっているモデルを実フィールドデータに適用した。モデルを適用したフィールドは,富山県に位置する弥陀ヶ原火山地獄谷であるり,低重力異常域である。 解析ではまず重力異常を説明する地下の密度構造を逆解析により推定した。密度構造の間隙率分布への変換では,地表で観察される湧水や噴気の程度から推定された低密度領域が水によるものかガスによるものかを予想し,密度構造を間隙率分布に変換した。得られた間隙率分布は,低重力域では周辺の母岩より0.06-0.35 程度大きくなっていることが示された。地熱地帯での既存の坑井データに基づく有効間隙率分布や密度-間隙率の関係と比較を行ったところ,本手法で推定された間隙率は現実的な範囲にあることが示された。 この地域では2016年より水準測量を実施しており,2020年までに最大約5cmを超える沈降域と約2cmの隆起域の存在が観測されている。本年度はこの地盤変動の力源推定も行い,高間隙率領域にクラック状力源を仮定することで観測された地盤変動が説明されることが判明した。 重力異常のパワースペクトルから原因層の平均深度を与える回帰直線とその有効周波数帯の双方を自動的に推定する手法は,その有効性を確かめるために,豊肥火山地域の重力異常データに適用された。この地域では,同じ解析が手動により行われている。先行研究とほぼ同じ領域の重力異常データに対して解析を行ったところ,手法の違いによると思われる差異が生じた。すなわち,解析を手動で行うか完全自動で行うかということによる差異であり,それは意外と大きいことが判明した。両者のどちらが正しいかという判断には他の探査データを必要とする。
|
今後の研究の推進方策 |
間隙率を介した岩盤の密度構造と重力異常の理論的関係について,今後は,重力異常や重力偏差データが取得されている地熱地帯での実データに本手法を適用し,推定された間隙比の妥当性,さらにはモデルの妥当性について議論を継続する。 最適フィルタの設計については,さらに実データへの適用を行い,手法の妥当性の確認を行う。また,長波長重力異常に対して,下方接続によるシグナル強化を行うことによって得られる重力異常データの有効性を議論し,本手法の適用の可能性についての考察を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度もコロナ禍による学会の現地開催の中止や野外調査の実施に制限が生じたため,旅費等に残額が生じた。本年度出版した論文のうち,2022年出版の論文(オープンアクセス)については年度末の支払いに間に合わなかったため,こちらにも残額が生じた。この費用は来年度初め早々に支払われる。 来年度もコロナ禍の下での研究,成果発表であるが,様々な規制が徐々に解除されつつあるため,積極的に現地調査や研究発表に取組んでゆく。
|