研究課題/領域番号 |
20K05408
|
研究機関 | 石川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
瀬戸 悟 石川工業高等専門学校, 電気工学科, 教授 (50216545)
|
研究分担者 |
山田 悟 石川工業高等専門学校, 電気工学科, 教授 (40249777)
鈴木 和彦 北海道科学大学, 工学部, 教授 (30226500)
荒木 秀明 長岡工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (40342480)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ペロブスカイト太陽電池 / 太陽電池 / 気相法 |
研究実績の概要 |
次世代太陽電池として注目されている有機・無機ペロブスカイト太陽電池の作製法の主流は液相法であり、気相法での研究報告は少ない。特に日本では気相法による報告は非常に少ないが、太陽電池のタンデム化と再現性に優れた気相法による研究の進展が望まれている。 本申請申請課題の目的は、気相法の一つであるホットウォール法でペロブスカイ太陽電池の高効率化を目指すことにある。 今年度は新規ホットウォール装置を用いた気相一貫プロセスを確立するためにその予備実験として真空蒸着したPbI2膜をヨウ化メチルアンモニウム(MAI)で熱処理してペロブスカイト相に変換するた実験を実施した。具体的には、PbI2膜に対する熱処理温度、熱処理雰囲気、そして熱処理時間を変えてペロブスカイト膜を作製し、結晶性と結晶粒の大きさをそれぞれX線回折および原子間力顕微鏡で評価した。また、それらのペロブスカイト膜を用いて逆型プレーナー構造のペロブスカイト太陽電池を作製して、MAI熱処理条件の変換効率への影響を調べた。 その結果、Ar雰囲気では140~150℃で2~4時間の熱処理したペロブスカイト膜が高い結晶性であることとを確認し、太陽電池の変更効率も16%を超えることができた。またホール輸送層として用いられることの多いPEDOT:PSSを銅フタロシアニンにかけることによって太陽電池の劣化が抑えらることも見出した。これらの結果は2020年9月に開催された国際会議(The 2010 International Conference on Solid Sate Devices and Materials)において口頭発表し、さらに英文誌Japanese Journal of Applied Physicsに採択された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、当初は既存のホットウォール装置に高周波を印加できる装置に改造し、ペロブスカイト膜の平坦性を向上させる予定であった。しかし、実験途中で高周波電源装置が故障したために、高周波を印加による膜の平坦化実験ができなくなった。そこで2年目以降に実施する予定であった新規ホットウォール装置による真空一貫プロセスによるペロブスカイト膜の作製する実験を前倒しで実施した。具体的には、PbI2膜をペロブスカイト相に変換するための熱処理条件を探る実験が順調に進み、ペロブスカイト太陽電池の各層の膜厚を最適化させて変換効率を向上させる実験を行うことができた。 その結果、glass/FTO/CuPc/MAPbI3/C60/BCP/Agなる構造の逆型ペロブスカイト太陽電池で16%の変換効率を達成した。特に、この構造では高価な材料であるPCBMやSpiro-MeOTADを用いず、しかも全プロセスが気相で15%を超える変換効率を実現できた。 また新規ホットウォール装置に用いる電気炉を2本製作し、実際に真空チャンバー内に設置してPbI2の成膜とMAI熱処理を真空中で一貫で行う予備実験を実施した。膜の結晶性はまだ高くないが、新規ホットウォール装置でペロブスカイト構造を持つ膜の作製に成功した。 以上、当初の高周波印加によるペロブスカイト膜の平坦化実験はできなくなったが、2年目の実験課題を先行して進めることができたこと、また2件の国内学会発表および国際会議での発表、さらに論文誌JJAPへの採択されたことから研究の進捗状況は概ね予定通り進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
PbI2の成膜とMAI熱処理によるペロブスカイト相への変換を真空中で行う新規ホットウォール装置での予備実験からペロブスカイト構造を有する膜の作製に成功したが、MAI過剰のペロブスカイト膜であるために低い安定性と変換効率の低下の二つの問題点があることが分かった。その問題点を解決するために今後はMAI熱処理の条件の検討し、化学量論組成のペロブスカイトを作製することが第一の課題である。さらにペロブスカイト膜の結晶粒界に起因するキャリアトラップが短絡電流および開放電圧を下げる原因と考えている。この結晶粒界に存在するキャリアトラップを不活性化(パッシベーション)ことがさらなる高効率化に重要であることもわかってきた。現在、PCBM溶液による不活性化を検討している。それによってペロブスカイト太陽電池で問題となっているヒステリシスをなくして太陽電池の安定性も向上すると考えている。 また真空チャンバー内に電気炉を3基追加し、PbI2成膜前の正孔輸送層となる銅フタロシアニン膜の成膜とペロブスカイト相への変換後の有機層であるC60とBCPを同じ真空チャンバー内で一貫して成膜できるように装置を改造する。これによってペロブスカイト太陽電池を真空一貫プロセスで作製し、高効率化につなげていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に電極膜厚制御用に購入予定であった成膜コントローラーは、設置する真空装置のターボ分子ポンプが故障して使用不能になったために購入しなかった。現在別の真空チャンバーを用いて電極を形成しているが、電極膜厚の正確な制御はできていない状況である。今年度別の真空チャンバーに設置できるよう装置を改造する予定である。改造後は、成膜コントローラを度購入する予定である。もし設置できない場合は、加熱する際の電流値と蒸着時間で電極の膜厚を制御してペロブスカイト太陽電池の作製に支障がないよう実験を進めていく。また前年度の未使用額の一部を真空装置の改造費に充てる予定である。 その他、当初計画していた旅費の支出はコロナ禍ですべての国内・国際会議がオンラインで実施されたためになかった。
|