研究課題/領域番号 |
20K05412
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岩佐 豪 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80596685)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 近接場光 / 多重極ハミルトニアン / 双極子近似の破れ |
研究実績の概要 |
近接場光は物質近傍に局在した伝搬しない電磁場成分であり、双極子禁制励起などの伝搬光とは異なる励起状態を実現できる。近年、近接場光による単分子技術も進展している。近接場光と分子の相互作用は、双極子近似と固有励起状態に基づいた記述を超えた理論を必要とする。さらに近接場光の分布は光源の形状などに依存するため、電磁場計算も必要になる。本研究では、多重極相互作用に基づいた双極子近似を超えた励起状態計算と計算電磁気学を組み合わせた理論手法を開発し、近接場光励起に由来する光化学と、従来の光化学との本質的な違いを明らかにし、近接場光化学の学理構築を目指す。 本年度は、実際の近接場光が誘起する光化学反応実験における機構解明に取り組んだ。実験は光STMを用いて、金属基板上のジメチルジスルフィドのS-S結合解離反応を、伝搬光と近接場光励起によって調べたものであり、両者には反応収率スペクトルの波長に違いが見られた。そこで、まずはクラスターモデルを用いた担持分子の電子基底・励起状態の解析と伝搬光の吸収スペクトルを計算し、伝搬光では禁制な励起状態が低エネルギー側に多数存在することを明らかにした。近接場光は、伝搬光において禁制な励起も可能になるため、これらの低エネルギー領域の励起状態が近接場光で効率よく誘起される可能性がある。 ついで、ジメチルジスルフィド単分子の近接場励起と伝搬光励起計算を行い、両者を比較した。伝搬光では、S1とS2の励起ベクトルが直交しているため、両者を同時に励起することは難しいが、近接場光ではこれらを同時に励起できることを示した。またこれらの励起に伴う誘起双極子モーメントは、近接場光源から分子の距離に応じて割合が変わることもわかった。今後は、金属担持されたジメチルジスルフィド分子の近接場励起の計算を進めて、その解析を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際の近接場光化学実験の理解を大きく深めることができて、論文の投稿まで行うことができた。また単分子ではあるが、近接場光励起と伝搬光励起の明確な違いも計算から実証することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、担持分子などの比較的大きな系での近接場光励起の計算を行っていき、今まで得られている担持分子の励起状態分布の知見と、単分子での近接場励起の知見を合わせて、近接場光化学の特徴を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で多くの学会・研究会・研究打合せが中止・延期・オンライン開催になり、計上していた出張費が未使用になった。これらは次年度の予算と併せて計算資源として研究進行を加速したい。
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