研究課題/領域番号 |
20K05413
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
猪瀬 朋子 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (10772296)
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研究分担者 |
雲林院 宏 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (40519352)
宮田 耕充 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (80547555)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遷移金属ダイカルコゲナイド / リモート励起探針増強蛍光 / 分子修飾 |
研究実績の概要 |
遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)シートの電子供与体および電子受容体分子による表面修飾は、TMDsの電子状態操作が可能なため、TMDs発光特性の制御に利用されている。本年度、代表者はまず、分担者・宮田作製のWSe2シートにテトラフルオロ-1,4-ベンゾキノン(TFBQ)を修飾した後、修飾したシートのラマン分光・蛍光発光測定を行い、WSe2シート層数と発光特性の相関を明らかにすることを目指した。具体的には、まず、TFBQ修飾前のCVD法で合成されたSi基板上WSe2シートの発光スペクトル測定を行い、観察されたスペクトルのピーク波長でWSe2シートのマッピングを行った。その結果、シート層数の増加に伴い、発光スペクトルピークの長波長シフトが確認された。これは、層数増加に伴いバンドギャップが小さくなることに由来する。また、多層部位では間接遷移型に伴う蛍光強度の低下が確認された。このような、層数増加に伴う発光スペクトルの長波長シフトおよび発光強度の低下は、TFBQ修飾後においても観察された。TFBQ修飾前と比較すると、TFBQ修飾後、WSe2シートの発光スペクトルの短波長シフトが確認され、また、単層よりも二層領域でより大きな短波長シフトが観察された。これは、TFBQのWSe2シート酸化作用により、トリオンの生成が抑制され、エキシトン発光の影響が大きくなったためと考察される。また、トリオンの束縛エネルギーが小さい二層部位においては、酸化によるより大きな短波長シフトが観察された。この結果から、本年度は、光学顕微鏡を用いてWSe2シート層数と発光特性の相関を確認することができ、さらに、WSe2シート2層の領域で、より顕著な発光特性変化を確認することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、高空間分解能でのリモート励起探針増強蛍光(RE-TEF)スペクトル測定を実現するために、RE-TEFプローブの改良を行っている。具体的には、2本の貴金属ナノワイヤーを平行にカンチレバーに装着する作製法を新たに開発した。このうち、2本のナノワイヤーの重なった部分に励起光を当てることで、光カップリングが起こり、より先端に近い側のナノワイヤーをプラズモンが伝搬し、ナノワイヤー先端にプラズモンが局在する。この局在化プラズモンを励起光にすることで、50-100nm程度の空間分解能でRE-TEFによるスペクトルマッピングを実現した。現在、ヘテロ接合MoSe2/WSe2のジャンクション領域におけるマッピングを行っているが、WSe2の発光が非常に弱く、バックグラウンドに隠れてしまうため、現在はMoSe2の発光スペクトルでマッピングを行っている。今後は、TMDsシートのさらなる発光特性を解析するために、ヘテロ接合と並行し、MoSe2やWSe2の単層・二層領域の分子修飾後の発光特性にも着目し、この解析を行っていく予定である。TMDsシートの発光特性を解析するためのRE-TEFの改良を行い、高空間分解能でのスペクトルマッピングにも成功していることから、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、リモート励起探針増強蛍光顕微鏡を用いて、TMDsシートの1層と2層の領域における分子修飾の効果についてより詳細を調べる。この際、AFM測定で観察領域のTMDsシートの層数を正確に判断しながら発光スペクトルマッピングを行うことで、分子修飾前後におけるTMDsシートの正確な発光特性の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に参加を見送った学会に、2022年度参加するため。残額は、2022年度学会参加費として使用する計画である。
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