研究課題/領域番号 |
20K05414
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大槻 幸義 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40203848)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子最適化 / スピン / 強誘電体 / レーザーパルス / 機械学習 / コヒーレント制御 |
研究実績の概要 |
強誘電体においてはメモリへの応用を念頭に,集団(ソフトフォノン)モードを励起し構造変化を目指した。構造変化を誘起するモードでは非調和性が大きいため,振動波束の広がり(位相緩和)が大きく,制御の選択性を著しく低下させる。そこで今年度は,光吸収に伴う加熱を避けるため,非共鳴パルスを用いた位相緩和抑制法の開発を目指した。モデル系として分子の電子励起状態の振動波束に着目することで,さまざまな位相緩和を系統的に実現し,最適制御シミュレーションにより位相緩和抑制機構を明らかにした。その結果,数ピコ秒内で波束が崩壊するような場合であっても,毎周期ごとにパルスを照射し続けることでほぼ完全に位相緩和が抑制できることを見出した。これに基づきモデルガウスパルス列を使ったシミュレーションを行ったところ,この新規抑制法は,パルスピーク強度・時間幅・照射タイミングが最適値から多少ずれても高い抑制度合いを示すことを明らかにした。成果は現在,学術誌に投稿中である。 最適制御法と機械学習の融合を目指す課題に関しては,分子整列制御の場合研究を通してレーザーパルスを表す記述子のプロトタイプを完成することができた。すなわち,互いに直交した直線偏光ダブルパルスを,時間周波数分解スペクトルで表すことで,制御パルスの情報を効果的に機械学習に入力できることが分かった。具体例としては,3次元整列度合いを遅延時間と強度の関数で表した制御ランドスケープ図に着目した。少数の訓練データを使って,畳み込み型ニューラルネットワークモデルを訓練することで,ランドスケープ図の温度変化を連続的に高い精度で予測できることを示した。成果を学術誌に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に記したように,本研究課題遂行に向けた重要なステップである,①非共鳴パルスを用いた位相緩和の抑制法の解明,②最適制御法と機械学習を融合させたプロトタイプの完成に成功している。ステッ①を通して,集団モードの運動をまとまった状態に保つ方法は明らかになったので,あとは反応を進行させるパルスとの組み合わせを考えればよい。もちろん,分子が変れば,位相緩和抑制のパルスのスペックを変える必要がある。しかし,抑制パルスを見出すプロトコルは確立しているので,個別のパラメータを最適制御シミュレーションコードに入力するだけで,さまざまな系に対応できると考えている。したがって,強誘電体のスイッチング制御に向けた進捗は順調である。 機械学習の適用に関しては,制御パルスを効果的に表す記述子の開発には成功している。次のステップとして,物質群を入力するための記述子に研究を進めている段階であり,順調に進捗しているといえる。 強磁性体に関しては課題の基本部分の解決に向けて着実に研究を進めている。フェリ磁性体GdFeCoにおけるレーザー誘起の磁化反転の報告を受けて,キュリー温度が高い強磁性体Fe,Co薄膜での実験が試みられている。実験では成功に至っていないので,レーザー誘起の磁化反転の最適制御シミュレーションを目指している。現在,この系の交換相互作用の大きさを見積もり,空間配置を変えた数スピン系でのシミュレーションを行っている。ただし,実験をモデル化するにはスピン数が少ないため,周辺スピンの影響を緩和定数で記述する方法に拡張中である。この具体的な指針に基づき,課題解決を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
強誘電体の構造変化を実際に誘起するには,位相緩和を抑制しつつ反応を進める必要がる。反応に際しては障壁を乗り超えるためのエネルギーが必要であり,共鳴パルスによる制御を加える。非共鳴パルスによる位相緩和抑制と反応促進の共鳴パルスの組み合わせの仕方は自明ではなく,ここでも最適制御シミュレーションの役割は大きい。最小モデルとして反応と位相緩和方向をもった,2次元の集団モードモデルに適用し,効果的な反応制御に必要なレーザーパルスの基本構造および制御機構を明らかにする。 機械学習に関しては,2020年度のレーザーパルスの記述子の開発を更に発展させ,機械学習に効果的に物質群の情報を入力する記述子の開発を目指す。計画を着実に進めるために,モデル系としては研究実績のある非対称コマ分子の3次元整列制御を考える。様々な特徴を持った分子を万遍なく学習することで,予測能力の高い機械学習モデルの構築を目指す。アイディアは,無次元化による分子サイズの影響を取り除くことと,人工分子を導入した訓練データの作成である。この場合研究の遂行により,量子制御と機械学習の融合に対して一つの答えを出すことができ,強秩序系への適用に向けて大きく前進させることができる。 強磁性体のスピン反転に関しては,少数スピンダイナミクスに対する(非マルコフ)マスター方程式を使い,半定量的な実験の記述を目指す。この有効運動方程式を使った最適制御シミュレーションにより,レーザー誘起の磁化反転法の指針を示す。コヒーレントな過程だけでは難しい場合は,現象論的なインコヒーレント熱励起パルスの導入も想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で予定した学会や出張が延期またはオンライン化されたことによる。延期された学会の出張旅費として使用する計画である。
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