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2022 年度 実施状況報告書

強秩序系に対する超高速コヒーレント制御の最適化シミュレーション

研究課題

研究課題/領域番号 20K05414
研究機関東北大学

研究代表者

大槻 幸義  東北大学, 理学研究科, 准教授 (40203848)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード量子最適制御 / 量子ビット / スピン / デコヒーレンス
研究実績の概要

非共鳴レーザーパルスを使った操作は,物質に吸収されるエネルギーを必要最小限に抑えることができるので,強秩序系のような凝縮相では有力な量子制御法である。構造変化を誘起するモードに関して,昨年度,非共鳴レーザーパルスが非調和性による振動波束の広がり(位相緩和)を高確率で抑制できることを報告した。非共鳴レーザーパルスは包絡線関数を通してのみ物質と相互作用するため,物質の波動関数の位相の制御は限定的であると考えられていたが,本研究は従来の予測を超えた制御の可能性を示唆している。そこで,2022年度は非共鳴レーザーパルスを使った振動モードの量子制御の可能性に関して,最適制御法とヨウ素分子モデル系を使っ徹底的に明らかにすることを目指した。まず,2通りの照射タイミングからなるパルス列により,エネルギー分解に必要な時間よりも短い時間で高確率で選択的分布制御が達成できることを明らかにした。波束整形制御(分布と相対位相の同時制御)においては,パルス照射タイミングと自由時間発展による位相変化との組み合わせを最適解として導けて。波束の位相緩和の抑制の一般化に関しては,波束の初期相対位相のズレがそれほど大きくない場合,ほぼ100%の達成度で位相緩和が抑制できることを数値的およびモデル解析式で明らかにした。現在,論文を作成中である。
強磁性体のコヒーレントなスピン反転制御に関しては,「反転できなかった」という最新の実験報告に対して最適制御法に基づき解析・拡張を試みた。スピンダイナミクスを精緻に測定できることから,タイヤモンド窒素空孔(NV)中心を想定しデコヒーレンスの大きさを系統的に変えながらシミュレーションを行った。その結果,コヒーレントなスピン反転が難しくなる原因を,デコヒーレンスに伴う系の純粋度の減少と解明できた(成果を論文に発表した)。新規に,エネルギー指定の最適化の開発にも成功した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

構造変化を誘起する振動モードに関しては,非共鳴パルスを用いた波束の制御法の基本的な機構ををほぼ明らかにできたと考えている。すなわち,選択的分布反転,波束整形(分布と相対位相の同時制御),位相緩和の抑制(分布は変えずに相対位相だけを制御)である。制御パルスはいずれもパルス列であり,制御目的に応じてパルス間隔を調整することで,振動波束の相対位相の変化と組み合わせ,量子干渉を誘起しそれにより目的を達成していることを明らかにした。この機構は共鳴パルスを用いる量子制御の機構とはおおきく異なる。共鳴パルスを用いる場合,パルス自身の位相を波動関数に直接書き込む制御機構が主である。一方,非共鳴パルスの場合,波束を構成する固有状態間の量子干渉を制御することで,固有状態間に新たな相対位相を生成し目的を達成する。現在,この新たな制御機構を応用上の指針として使える形にまとめ論文にまとめてる。2023年度の早い時期に発表する予定である。
デコヒーレンスが大きな環境下でのスピン反転制御には大きな制限があることを明らかにした(2023年度に論文として成果報告した)。この制限は系の純粋度を使うことで定量的に評価できること,また高強度の外場を使っても飽和値があること示している。以上の結果は最新の実験報告とも合致している。一方,本シミュレーションを通して,新たにエネルギー指定の量子最適化法を提案できた。これは極めて一般的な量子最適制御の性質であり,外場エネルギーによるペナルティを評価する重みパラメータと制御達成度および目的汎関数の値と一対一に対応することを示している。従来,外場エネルギーを拘束条件として取り入れる試みは提案されているものの,収束保証の解法アルゴリズムは存在せず応用例は限定的であった。本研究で開発した新たなアルゴリズムが今後,様々な量子最適化に応用されると期待している。

今後の研究の推進方策

2022年度までの成果から,研究課題はほぼ遂行できた。しかし,コロナ感染症対策のためいくつかの学会・研究会は中止または延期となり成果発表の機会が失われた。2023年度は延長を認められた予算を使い,研究成果を広く発表していく予定である。発表においては,特に実験研究者との討論を通して成果の波及を期待している。加えて,現在作成中の論文については,早急に成果をとりまとめ2023年度のできるだけ早い時期に発表する。

次年度使用額が生じた理由

コロナ感染症対策のためいくつかの学会・研究会は中止または延期となり成果発表の機会が失われた。2023年度は延長を認められた予算を使い,研究成果を広く発表していく予定である。予算はそのための出張旅費・論文投稿費・研究期間の全データの保存用メディアの購入に充てる予定である。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] Optimal control for maximally creating and maintaining a superposition state of a two-level system under the influence of Markovian decoherence2023

    • 著者名/発表者名
      Y. Ohtsuki, S. Mikami, T. Ajiki, D. J. Tannor
    • 雑誌名

      J. Chin. Chem. Soc.

      巻: 70 ページ: 328 340

    • DOI

      10.1002/jccs.202200451

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Quantum control of isotope-selective molecular orientation2022

    • 著者名/発表者名
      Y. Kurosaki, K. Yokoyama, Y. Ohtsuki
    • 雑誌名

      AIP Conference Proceedings

      巻: 2611 ページ: 020010

    • DOI

      10.1063/5.0119362

    • 査読あり
  • [学会発表] 機械学習が予測するレーザー誘起分子整列の制御ランドスケープ図2023

    • 著者名/発表者名
      難波知太郎,大槻幸義
    • 学会等名
      日本化学会 第103春季年会
  • [学会発表] 最適制御法を用いたNVセンターへの量子位相推定アルゴリズムの実装シミュレーション2022

    • 著者名/発表者名
      三上翠跳,大槻幸義
    • 学会等名
      第24回理論化学討論会
  • [学会発表] レーザー誘起の分子整列制御ランドスケープ図を予測する機械学習モデルの開発2022

    • 著者名/発表者名
      難波知太郎,大槻幸義
    • 学会等名
      第24回理論化学討論会
  • [学会発表] Highly efficient photochemical reactions induced by optimal laser pulses: Applications to machine learning and quantum computation2022

    • 著者名/発表者名
      T. Namba, R. Ishii, S. Mikami, T. Nakajima, and Y. Ohtsuki
    • 学会等名
      The 12th International Symposium of Advanced Energy Science
    • 国際学会
  • [学会発表] 非共鳴レーザーパルス誘起のラマン遷移を用いる振動波束制御法の開発2022

    • 著者名/発表者名
      石井玲音,難波知太郎,大槻幸義,香月浩之,大森賢治
    • 学会等名
      第16回分子科学討論会
  • [学会発表] 最適制御法によるNVセンタースピン量子ビットを用いた電子状態計算の実装シミュレーション:デコヒーレンスの影響2022

    • 著者名/発表者名
      三上翠跳,大槻幸義
    • 学会等名
      第16回分子科学討論会
  • [学会発表] 機械学習により予測するレーザー誘起の整列制御ランドスケープ図2022

    • 著者名/発表者名
      難波知太郎,大槻幸義
    • 学会等名
      第16回分子科学討論会

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公開日: 2023-12-25  

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