研究課題/領域番号 |
20K05415
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
近藤 正人 筑波大学, 数理物質系, 助教 (20611221)
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研究分担者 |
石橋 孝章 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70232337)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 振動和周波発生分光 / シリカコート基板 / シランカップリング / 界面 |
研究実績の概要 |
本研究では,水溶液中のタンパク質の振動スペクトルを高感度に得る新しい方法を確立する.固液界面に,タンパク質を向きを制御した上で固定する.ここに,界面敏感な振動分光法であるヘテロダイン検出(HD-)振動和周波発生(VSFG)分光法を適用するのが,本研究の基本的なアイデアである. 前年度に,タンパク質を固定でき,かつHD-VSFG分光を適用可能な固体基板として,シリカ薄膜をコートしたCaF2基板の作製と評価に取り組んだ.この際,この基板上の試料からのVSFG信号強度が,コートなしのものからの強度に比べて,1/10以下まで低下してしまうという深刻な問題があること分かった.このためVSFG信号を検出するには,実験の都度,コートなしの基板を用いて,装置の光軸を厳格に調整するのが必須で,測定まで非常に時間がかかる状態であった.本年度は,主にこの問題の解決に取り組んだ. HD-VSFG測定では,位相基準(参照試料)が必要である.前年度は,コートしたシリカ上に銀薄膜を蒸着し,参照試料とした.参照試料からの信号強度が十分であれば,その信号をガイドに装置光軸の調整ができる.だが前述の通り,この基板ではそれができなかった.本年度は,CaF2基板に直接,銀薄膜を蒸着し,その上にシリカコートする方法を試した.その結果,この基板の銀からのVSFG信号の強度は,コートなしのCaF2基板の場合とほぼ同様であった.このため,光軸調整の際に,基板を交換する必要がなくなり,測定までにかかる時間を大幅に短縮できた.この基板のシリカ上にシランカップリング膜を準備し,膜を上に向けた時と下に向けた時のHD-VSFGスペクトルを,それぞれ外部と内部反射配置で測定した.下に向けた時のスペクトルが,上に向けた時のものを反転させた形状を示していたことから,この基板でも正しく内部反射HD-VSFG測定ができることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
到達目標までの大まかなステップとして,1. シリカコートCaF2基板の簡易な作製方法の確立,2. このシリカコートCaF2基板を利用して内部反射HD-VSFG測定するための手順の確立,3. シリカコートCaF2基板にシランカップリング法でアンカー分子を準備する方法の確立,4. このシランカップリング膜の固気および固液界面での内部反射HD-VSFG測定,そして,5. アンカー分子にタンパク質を固定した系を準備とHD-VSFG測定,以上を計画している.初年度に,この二番目の項目まで行ったものの,信号強度が著しく弱いという深刻な問題があったため,二年目はその解決に取り組んだ.基板の作製方法や,この基板で内部反射HD-VSFGスペクトルを正しく得るための検討を再度行ったため,その分,当初の計画から遅れが生じている.これらの検討を終えることができた点を踏まえ,やや遅れているという評価とした.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って,シリカコート基板上のシランカップリング膜にアンカー分子を準備する方法の確立を行うことから開始する.シリカコート基板に固定したアンカー分子を水に接させて,固液界面でHD-VSFG測定を行い,アンカー分子のスペクトルを得ることを本年度の第一の到達目標とする.本年度に,シリカコート基板を用いて内部反射HD-VSFG測定をする際の参照試料の取り扱い方の検討を進めた結果,前年度までに比べれば,かなり実験手順を簡易化できた.だが,本測定は,それでもまだ多くの手順を含んでいる.そこで,現在他の実験と共有して用いているHD-VSFGの試料室とは別に,本研究課題専用の試料室を構築することを本年度より進めている.この専用の試料室の立ち上げを完了させることが本年度第二の目標である.この試料室を用いて,集中して研究計画を遂行し,課題申請当初の目標であったタンパク質を固定した系のHD-VSFG測定の試験実験をできる段階まで研究期間内に到達したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の9月頃,VSFG分光装置の光源であるフェムト秒レーザーシステムの電源にエラーが頻発して,立ち上がらず,VSFG分光実験をできない時期があった.光源の不調は,本計画の遂行に著しい影響を及ぼすため,本研究の助成金での電源の修理を検討した.修理費用の見積もりのため,レーザー社の技術担当に訪問と,原因究明の作業を依頼した.この際は,不調の原因ははっきり分からず,電源内の基板の交換が必要だということで,90万円ほどの見積額であった.だが,その後,不調がみられなくなった.不調の問題が解決されるような作業をしたわけではなかったため,再発を恐れ,電源の交換も念頭において本年度の計画を進めた.そのため,年度末近くまで,90万円ほどの残額が保たれたままとなった.幸い,不調はその後見られないままであったが,時期の問題があり,他の必要な物品を購入することができず,残額が生じた.残額は,本来使用予定であった光学機器の購入に充てる計画である.
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