研究課題/領域番号 |
20K05416
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
矢後 友暁 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (30451735)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シングレットフィッション / ナノ粒子 / 遅延蛍光 / 磁場効果 / 三重項対 |
研究実績の概要 |
太陽電池の開発においては、太陽光のもつエネルギーを有効に活用できることが重要である。既存のシリコン太陽電池においては、1100 nmの光のエネルギーは有効に活用されているが、それより短波長の光においては、光のエネルギーの一部が熱となり電気的なエネルギーに変換されずに放出されている。このようなエネルギーを有効活用できれば、太陽電池の効率の向上が期待される。 シングレットフィッション(励起子分裂)とは、一つの光励起状態(一重項)から二つの光励起状態(三重項)が生成する現象のことである。この励起子分裂を利用すると、太陽電池の効率を向上させることが可能である。励起子分裂を用いたスキームにおいては、(1)はじめに分子が短波長の光を吸収する。(2)励起子分裂が起こり、エネルギーが低い励起状態が二つ生成する。(3)励起状態のエネルギーが太陽電池の駆動に必要なエネルギーにマッチしているため、二つの励起状態エネルギーどちらもが電気エネルギーに変換される。したがって、この波長での太陽電池の変換効率は励起子分裂がない場合に比べ倍となり、太陽電池の効率化が達成される。 このような励起子分裂を最適化するためには、その機構を明らかにすることが重要である。実際の有機デバイスにおいては、デバイスの効率化のためにデバイスサイズがナノメートルオーダーとなっていることが多い。そこで本研究では、ナノメートルサイズの有機固体において励起子分裂過程がどのように進行するのかを明らかとすることを目的とした。再沈法により、ルブレンおよびジフェニルヘキサトリエンのナノ粒子を作成した。磁場下での蛍光測定から有機ナノ粒子中での励起子分裂過程を観測することに成功した。ナノサイズ化に伴い有機結晶の結晶相もアモルファスへ変化していることがわかった。さらに、結晶相の変化もエキシトンのダイナミクスに影響を与えることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度も引き続き、主にルブレンを用いて研究を進めた。再沈法により粒径が数百ナノメートルのナノ粒子を含んだ分散液を作成した。昨年度、ナノ粒子分散液において蛍光寿命測定を行い、ナノ粒子においてはバルク結晶と比べて蛍光の減衰が遅くなり長寿命化するという現象を観測した。これは、シングレットフィッションによって生成した、三重項対の寿命が長くなったことを示している。当初は、粒子サイズがナノサイズになることにより、三重項励起子の拡散が抑制され三重項対の寿命が長くなっていると考えていた。しかし、X線構造解析の結果より、有機結晶をナノサイズ化することにより、結晶相がアモルファスへ変化することが明らかになった。三重項対の長寿命化の原因として、粒子のサイズの変化のみならず結晶の晶系が変化したことも考慮に入れる必要性があることが分かった。そこで、スピンコート法により有機薄膜を作製し、X線構造解析、蛍光減衰の測定および蛍光の磁場効果測定を行った。ルブレンの場合、有機薄膜の晶系は、X線構造解析からアモルファスであることが分かった。また、ルブレン有機薄膜で観測された蛍光減衰および磁場効果は、ナノ粒子で観測された蛍光減衰および磁場効果と共通点があった。そのため、現段階では、ルブレンでのシングレットフィッションに対するナノ粒子化の効果は、サイズがナノサイズになるとともに晶系がアモルファスに変化したことに起因していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究より、ナノ粒子化することにより、シングレットフィッションによって生成する三重項対の寿命が延びることが明らかになった。現段階では、この原因が、粒子がナノサイズになったためによるものなのか、粒子の晶系の変化によるものなのかが明らかにされていない。そこで今年度は、ナノ粒子のサイズを変化させ実験を行い、遅延蛍光の磁場効果の粒子サイズ依存性を検討する。得られた結果を励起子の拡散をとりこんだ統計リュービル方程式を用いて、サイズ効果と結晶相の効果の寄与を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により、学会がzoom開催となり、旅費が抑えられた。 来年度、アメリカでの学会に参加予定であるが、物価高により、当初の計画より旅費が高額になると考えられる。そのため、次年度使用額を使う計画である。
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