本研究課題の最終年度では、NASAP(numerical analysis of self-assembly process)の適用を通した配位自己集合の数値解析を引き続き実行した。具体的には、Rh正方形錯体とPd正方ピラミッド錯体の自己集合に対して、主要反応経路、律速段階、速度論トラップなどを明らかにし、後者に対しては反応系に共存するアニオンの違いが反応経路に及ぼす影響について詳細な解析を行った。また、自身のこれまでの研究を含む、数値手法によって配位自己集合過程を研究する方法論の現状に関する調査を行い、レビュー論文として発表した。
速い可逆反応の両端に遅い不可逆反応が接続された反応系において、二つの不可逆反応の相対的なエネルギー障壁の差のみに依存する生成物分布が与えられることを示す、Curtin-Hammett原理として知られる概念の拡張として、「可逆な素反応のみからなる反応ネットワークに対してもCurtin-Hammett原理のように速度論支配を導く経路選択の原理が存在するか」という問いに基づき、この概念の拡張可能性を、単純な数理モデルと分子自己集合の反応ネットワークを用いたシミュレーションを通して検証した。系が大域的な平衡に到達する前に過渡的な速度論状態が実現することを確かめた。さらに、反応ネットワークの両末端に同様の可逆な素反応を追加すると、過渡的な速度論状態の寿命が著しく延びることを明らかにした。金属イオンMと三座配位子LからなるM6L4切頂四面体型錯体の自己集合過程の数値解析の結果、分子自己集合系の反応ネットワークにおいても準不可逆的な反応の出現によって経路選択が起こることを明らかにし、擬不可逆性が可逆な反応ネットワークにおける重要な一般概念であることを見出した(論文投稿中)。
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