研究実績の概要 |
Nタイプで自己ドープしたコロイドHgS量子ドットは、ドープしないHgS量子ドットと比べて電子を多く含み低エネルギー伝導帯軌道であるLUMOまでを占有する。この系は、赤外領域の光電素子として興味深いだけでなく、価電子帯からは離れた伝導帯での電子の光励起ダイナミクスを追える面白さがある。本研究では、超高速のバンド内オージェ過程が生じることを確認した。計算結果は、実験よりも小さなサイズにも関わらず、実験で観測されたS軌道やP軌道に関するエネルギー準位を正確に再現した。これはHgとSの構成比こそがHgS量子ドットの電子構造を支配していることを示す。また軌道計算からS軌道とP軌道も再現し、使用した量子ドットモデルの正しさが裏付けられた。 もう一つの成果として、水素-重水素の同位体混合液体において、構造がほぼ同じにもかからわず,拡散係数が水素:重水素が3:1になる混合溶液で最小になることを発見した。さらに詳細な解析から、その物理的起源が「水素の過冷却化による拡散の遅延」と「水素の軽量化による拡散の加速」という二つの相反するファクターが存在するためと結論付けた。この特定の混合比による混合溶液の遅延は、過冷却実験でも実際に観測されており、本計算の妥当性を示している。また、特定の混合比で拡散が遅延するということは、特定の混合比で固化を抑制できるということでもあり、極低温への冷却が必要な水素超流動の実現へ向けた一つの提起となる。
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