研究課題/領域番号 |
20K05420
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
和田 真一 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 准教授 (60304391)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非接触導電性計測 / 内殻励起 / 共鳴オージェ電子分光 / Core-hole clock法 / 自己組織化単分子膜(SAM) / 金ナノ粒子 / パルスレーザーアブレーション法 |
研究実績の概要 |
軟X線を用いた内殻電子励起によって、原子レベルで局所的に電荷を発生させることができる。そしてその電荷の緩和は、オージェ崩壊の変化として計測できる。申請者は、このような内殻励起による反応ダイナミクスを解析することで、有機分子の導電性を評価し得ることを見出した。そこで本申請研究では、電極間に接合した分子デバイスをモデル化した系として、中間に軟X線吸収部位をもつ分子で金ナノ粒子間を架橋したナノ粒子接合分子の内殻励起共鳴オージェ電子分光によるcore-hole clock(CHC)計測を目指している。そのために令和3年度は、芳香分子鎖が異なる2種類のチオール分子で修飾した金ナノ粒子でイオン脱離およびCHCの計測を実施した。 前年度に確立した液中パルスレーザーアブレーション法で合成した金ナノ粒子分散液とチオール溶液とを高速撹拌することで金ナノ粒子への分子修飾を施し、この分散液の遠心濃縮・拡散によって、不純物のない状態でシリコン基板上に分子修飾金ナノ粒子の集積薄膜を作成した。 実験は高エネルギー加速器研究機構の放射光施設PFと広島大学のHiSORで実施した。ナノ粒子修飾試料の評価についてはHiSOR BL-13で軟X線吸収および光電子分光の測定で行い、その試料準備の正当性を確認した。先ずPFのハイブリッド運転で飛行時間型脱離イオン質量分析を実施することにより、修飾分子の末端最表面に位置するメチルエステル部位から脱離するCH3+イオンの断片化を調べた。ナノ粒子表面分子では平面基板上表面分子とは異なる断片化を示すことが分かり、芳香鎖長によっても異なることが分かった。この違いはHiSOR BL-13で実施したオージェ電子分光計測によるCHC解析でも検証することができ、両手法からナノ粒子修飾では同程度の電荷移動速度の低下がみられることが分かった。このように基板に集積したナノ粒子薄膜でもその修飾分子の電荷移動ダイナミクスを評価し得ることを検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は本研究の基軸となる金ナノ粒子について、本研究に適した状態で独自に合成・調達するための環境整備ならびに合成条件を確立し、そして合成したナノ粒子の評価を実施することができた。 また2年目となる本年度は、上記合成金ナノ粒子に反応部位である官能基を持った2種類の異なるチオール分子を修飾することに成功し、その基板集積膜における内殻励起イオン脱離計測並びにオージェ電子分光計測を実施することができた。両計測の解析結果は矛盾することなくナノ粒子系で電荷移動速度が遅くなることを示すことが分かった。 以上のように試料準備技術から計測・解析までの一連の研究環境を整えることができたことから、本研究の進捗状況は適正に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は次のステップとして、修飾分子にジチオール分子を用意し、金ナノ粒子に架橋する手法の確立へ研究を進めていく。そして、合成した分子接合ナノ粒子を極端に凝集させずにシリコン基板上に固定化させる手法の確立に取り組む。主にスピンキャスト法かLangmuir-Blodgett(LB)法、もしくは移流集積法を試すことで最良の固定化手法を確立する。 以上の分子接合した金ナノ粒子の合成および固定化法が確立できれば、後は順次放射光計測を実施していくことになるが、HiSOR BL-13での吸収分光、電子分光計測は我々の研究グループによって技術的に確立しているので、問題なく実施できる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
合成したナノ粒子のその場評価に可視吸収測定システムの導入を検討していたが、デモ機を使用した種々の調査・検討の結果、当初導入予定の該当機種の性能が利用条件を満たさないことが判明し、購入を見合わせる判断に至った。その後も機種選定は継続している。 またコロナ禍での学会開催の中止やオンライン化に伴い、当初に予定していた出張旅費の使用が大幅に減った。研究成果の公表の場として、今後の学会発表旅費として使用を予定している。
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