研究実績の概要 |
近年、有機材料や天然物合成といった分野で光化学反応の研究が活発になり、光化学反応の最先端分野への応用が注目を集めている。これらの光化学反応では、異なる電子状態間のエネルギー面の円錐交差を経由して反応が進行するため、円錐交差点で存在する分かれ道のどの経路をとるかが反応制御において重要である。しかしながら、その経路選択の理由は解明されておらず、その理由を明らかにするためには量子力学的手法と分子動力学法を組み合わせ、動力学的観点から円錐交差点の経路選択を解析する必要がある。本研究では、円錐交差点の経路選択における動的因子の解析法を構築し、経路選択している動的因子を解明することを目的としている。 本年度は、計画していた反応の1つであるs-cis-1,3-ブタジエンの光化学反応について研究を行った。S2状態に励起されたs-cis-1,3-ブタジエンは、S2/S1とそれに続くS1/S0円錐交差(CI)を介して緩和される。S1/S0-CIで分岐した反応チャネルによって、トランスおよびシス異性体、シクロブテン、ビシクロブタン、およびメチレンシクロプロピルジラジカルが生成する。それらの生成物はある比率で生成するが、その理由はこれまで完全に解明されていなかった。非断熱分子動力学法を用い解析した結果、各生成物の比率は、各生成物のS1/S0-CIでの∠C-C-C-C二面角の許容範囲で理解できた。また、1,3-ブタジエンの代わりに2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンを使用し、S1/S0-CIでの∠C-C-C-C二面角の変動を小さくすると、各生成物の比率が変化することが分かった。このように、動的因子が生成物分布を決定する重要な因子であることが明らかになった。次年度は、計画していた他の光化学反応について研究を行う。
|