研究課題/領域番号 |
20K05424
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
山川 紘一郎 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究職 (60633279)
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研究分担者 |
福谷 克之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10228900)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核スピン転換 |
研究実績の概要 |
二酸化炭素凝縮層中で分極した水素による微弱な赤外吸収を検出した。水素にはオルソとパラと呼ばれる2種類の核スピン異性体が存在するが、これら異性体による吸収を分離して観測することに成功した。赤外吸収スペクトルは、オルソからパラへの核スピン転換に起因する時間変化を示した。赤外吸収ピークの積分強度の時間依存性を解析することで、水素の核スピン転換速度を決定した。また、気相からの振動数シフトに注目することで、従来考えられていた電場由来の転換機構を除外し、替わりに「電子との超微細相互作用による転換機構」が妥当であることを明らかにした。この成果は、論文として米国学術誌に発表した(Physical Review B Rapid Communication 102, 041401, 2020)。 また、アルゴン凝縮層中に分離した水分子の核スピン転換も、赤外吸収分光法を用いて測定した。水分子としては、H2(16O)、H2(17O)、H2(18O)という3種類の同位体置換種を用い、これらの核スピン転換速度を同時決定することに成功した。H2(17O)の転換速度が、他の2種に比べて有意に速いという結果が得られたが、これは17Oのみがスピンを有することから考えて妥当と言える。実験から得られた、H2(16O)、H2(17O)、H2(18O)の核スピン転換速度の比から、「水分子の核スピン転換に対する電子スピンの寄与」を定量的に求めた。 さらに、既存の超高真空テラヘルツ・赤外分光システムに、新たにラマン分光システムを組み込む作業も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分極に注目することで、二酸化炭素凝縮層中に分離した水素の核スピン転換を、赤外吸収分光法を用いて非破壊に測定することに成功した。この成果は、論文としてすでに米国学術誌に発表している。また、同位体を使い分けた実験により、水分子の核スピン転換機構に関しても新たな知見が得られた。ラマン分光システムの導入も計画通り進んでいる。 このような進捗状況から、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
同位体置換法を用いた水分子の核スピン転換実験を、今後もさらに進める。具体的には、転換速度の温度依存性を測定する。その結果をまとめ、論文として欧米学術誌に発表する。希ガス固体中に分離した水素の核スピン転換については、赤外吸収分光法での測定は極めて困難であるため、ラマン分光法による測定に挑戦する。ラマンスペクトル上でオルソ水素とパラ水素に由来する散乱ピークを分離して観測し、スペクトルの時間変化から転換速度を決定する。 また、多光子共鳴イオン化装置を用いて、希ガス固体表面に吸着した水素の核スピン転換も観測する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に購入した物品について、当初予定より安価で購入できたため、次年度使用額が生じることとなった。次年度使用額は、令和3年度分経費と合わせて、超高真空配管部品の購入費用として使用する。
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