二酸化炭素凝縮層内に束縛した水素分子の核スピン転換を、絶対温度5-15 Kの範囲で測定し、凝縮層生成時の温度と転換時の温度の両方に転換速度が依存することを明らかにした。この温度依存性の解析を基に、凝縮層の局所構造と格子振動に関連付けて水素の核スピン転換機構を考察した。また、一酸化炭素凝縮層、希ガス凝縮層、アモルファス氷の内部及び表面に水素を束縛し、核スピン転換測定を行った。特に、一酸化炭素凝縮層内部では、複数の束縛サイトを同定し、それらの間の水素の拡散を観測した。 メタン分子から成る結晶には高温相(I)と低温相(II)が存在する。これらの内、低温相(II)の赤外吸収スペクトルは、メタンの回転及び秤動運動に起因する複雑な構造を有し、その帰属は未だ確立していない。そこで、核スピン転換に伴うスペクトルの時間変化及び温度変化を測定・解析することで、倍音である2v3、2v4、結合音であるv3+v4の振動数域について、スペクトルの帰属を決定した。さらに、核スピン転換の解析と対称性の考察を基に、低温相(II)の新たな分子配向モデルを考案した。 水分子の同位体置換種であるD2Oを希ガス凝縮層内に捕捉し、オルソ異性体とパラ異性体に由来する赤外吸収信号を分離して観測した。それらの信号強度の時間変化を解析することで、核スピン転換速度を決定した。転換速度の温度依存性を、H2Oの場合と比較して解析することにより、核スピン転換に伴う回転緩和の経路を明らかにした。
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