氷は超高圧下で、水素結合対称化と呼ばれる現象が起きると予測されている。水素結合対称化とは隣接酸素原子間の中間に水素原子が配置される現象であり、対称化後の氷は物性が大きく変化すると考えらる。本研究では、水素原子を直接観測できる中性子回折実験の手法で、この水素結合対称化を解明すること目的とした。 本研究目的を達成するために、高圧発生装置としてダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた。DACとは、先端を平らにした2つのダイヤモンドで、ガスケットと呼ばれる金属板を挟むことで加圧を行う装置であり、超高圧の発生を行うことができる。本装置を利用することで、氷を高圧状態に保持したまま、中性子実験を行うことが可能となる。 今年度の前半では主にDAC装置の高度化、特にガスケット素材の開発に取り組んだ。DACを用いた中性子実験では、一部の入射中性子がガスケットに照射され、ガスケット由来の回折パターンが観察されてしまう。詳細な氷の構造解析を行うためには、ガスケットピークを除去する必要があり、そのために中性子回折線が発生しない、いわゆるnull素材のガスケットを利用する必要があった。昨年度の研究で、Mnを含んだ合金がDAC実験に適していることを見出したが、今年度は成分を最適化した合金素材を合成し、ガスケットとしての性能テストを行った。その結果、新たに製作したガスケット素材は、昨年度利用したものより硬く、高圧実験により適していることが示された。 本年度の後半には、開発を行ったDAC・ガスケットを用いて、実際に高圧中性子回折実験を行った。氷を用いた実験において、45万気圧までの中性子回折パターンを得ることに成功し、この圧力までの氷の構造解析を行うことができた。水素結合対称化にはより高い圧力での実験が必要となるが、本研究成果により水素結合対称化を解明するための見込みを立てることができたと考えている。
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