本課題では貴金属錯イオンを前駆体としたレーザー光誘起微粒子化における還元過程の解明を、時間分解エネルギー分散型 XAFS(時間分解DXAFS)を用いた反応追跡や量子化学計算による反応中間体の探索によって推し進めてきた。時間分解DXAFSを用いた研究では、パラジウムイオン、ロジウムイオンを前駆体としたレーザー光還元反応について、新たな多光子過程や中間体を見出し、レーザー照射特有の反応過程を明らかにした。最終年度は塩化金酸イオンを前駆体とした紫外レーザー光誘起微粒子化における金イオンの還元過程をAu L3-edge近傍のDXAFS測定で追跡した。添加するアルコールや保護剤濃度、レーザー光(355 nm)強度を変化させて測定を行い、還元反応速度への影響を明らかにした。いずれの条件でもXANES領域にこれまで報告のなかった複数の等吸収点が逐次的に出現・消失しており、金のレーザー微粒子化においてもパルスレーザー照射特有の反応過程が進行していることを示唆する結果を得た。量子化学計算では主にパラジウムイオン光還元反応をターゲットに、前駆体イオンの励起状態ポテンシャルやそのポテンシャル上での光分解過程を検討し、解離生成物Pd(I)Cl2イオンが還元反応中間体の候補となることを示した。最終年度はこのPd(I)Cl2イオンとアルコールとの還元反応について複数の反応経路を検討し、溶媒効果を含めた反応エネジェティクスを計算した。その結果、アルコール水溶液中でPd(0)の生成につながる反応として、Pd(0)ClイオンあるいはPd(0)HCl2イオンの生成に至る反応経路を見出した。
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