磁場配向は,分子の磁気異方性に従い,分子が配向すると考えられている.申請者は,分子の異方性よりは分子の集まり(凝集体)が配向することがきっかけで引き起こされていると考えている.そのため,結晶化初期段階の凝集体の大きさ,凝集状態の観測を試みている.2022年度も引き続き蛍光顕微観測を行った.蛍光プローブとして,磁場配向を示す代表的な化合物であり,様々な置換基で修飾も可能である芳香族化合物を用いた.ピレンは凝集することでエキシマー蛍光を示すため,凝集状態の観測が可能となる.また,別の芳香族化合物を加えることで,エネルギー移動の観測を行った.エネルギー移動の効率は距離に依存するため,分散した状態と凝集した状態でエネルギー移動の効率が異なることを利用して凝集状態の情報を得ることができる.申請者は,このような化合物を配向状態のプローブとして用いた.2020年度と同様の機能性ゲルを用い,様々な芳香族化合物をゲル内に取り込ませた.ゲル内の環境変化により,芳香族化合物の凝集状態または分散状態を変化させることを行った.用いた機能性ゲルは温度により体積相転移を示すものである.このような系を用いて,芳香族化合物の微結晶,凝集体,エキシマー(ダイマー),モノマーの状態変化を顕微観測およびスペクトル測定,蛍光寿命測定を行った.アントラセンとテトラセン系では,収縮状態では,ゲル骨格中に分散しているため,ほとんどエネルギー移動が起こらないのに対し,膨潤状態では,アントラセンとテトラセンの凝集状態が生成するため,エネルギー移動が効率よく起こることがわかった.ゲル中でアクティブマターとなりうる凝集状態を準安定に存在させることができた.
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