研究課題/領域番号 |
20K05430
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤本 和宏 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 特任准教授 (00511255)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 電子カップリング / エキシトンモデル / 電荷移動 / 励起エネルギー移動 / 光合成アンテナ / 量子化学 |
研究実績の概要 |
励起状態にあるドナー分子の脱励起と同時に近傍に存在するアクセプター分子が励起する現象は、励起エネルギー移動(EET)と呼ばれている。EETの反応速度を見積るためには、電子カップリングと呼ばれる「光励起・脱励起に関わる電子の相互作用」を正確に計算する必要がある。私は電子遷移密度を用いたTDFI法や遷移多極子を用いたTrESP法を考案し、従来法であるDD近似が適用できなかった系に対しても高精度な電子カップリング計算を実現してきた。 昨年度は光合成アンテナタンパク質(LH2)に対する分子動力学(MD)計算を実施したが、本年度はそこから得られた構造に対してさらにONIOM法による構造最適化を実施した。ダイマーエキシトンモデルという新たな励起状態計算法を開発し、構造最適化したLH2に対する励起状態計算を実施したところ、実験の吸収スペクトルを精度良く再現することに成功した。さらに、得られた励起エネルギーに対してエネルギー分割法を適用した。その結果、LH2を構成する2つのバクテリオクロロフィル会合体(B850とB800)のうちB850では電子カップリングや電荷移動(CT)といった電子的効果が吸収波長の長波長化の主因であるのに対し、B800では古典的静電効果の影響が長波長化の主因であることを突き止めた。これより、LH2の吸収波長調節(スペクトルチューニング)機構がB850とB800では大きく異なることが明らかとなった。また、構造最適化を適用せずに結晶構造をそのまま用いて同様の計算を試みたところ、実験の吸収スペクトルを全く再現できなかった。これより、LH2の吸収スペクトルの定量的解析には構造最適化が極めて重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は光合成アンテナタンパク質(LH2)に対する構造最適化と電子カップリング計算を計画していたが、それらを実施することができたことが主な理由である。また、ダイマーエキシトンモデルを開発したことでLH2の吸収波長調節(スペクトルチューニング)機構を定量的に解析することもできたため、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
分子動力学(MD)計算や構造最適化計算から得られた光合成アンテナタンパク質(LH2)の構造を用いて励起エネルギー移動の速度定数の算出を試みる。バクテリオクロロフィルの各色素間やB800ーB850間の速度定数の大きさを概算し、実験値との比較を行う。また、LH2中へ人工色素を導入した実験報告もあることから、こうした系における速度定数の算出も実施する。 LH2以外の光合成アンテナタンパク質に対しても吸収スペクトルの定量的解析を実施する。励起エネルギーの分割解析を実施することでスペクトルシフトへの寄与の大きさを定量的に評価し、LH2で得られた結果との比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスによるパンデミックの影響のため、使用を計画していた旅費が余る形となった。使用計画との差額は次年度の研究のための物品費として使用する予定である。
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