研究課題/領域番号 |
20K05432
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高口 博志 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 准教授 (40311188)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 反応ダイナミクス / 状態選別イオンビーム / パルス放電法 / ヒドリド移動反応 |
研究実績の概要 |
これまで用いてきたレーザー光イオン化法による状態選別NO+源に加えて、パルス放電法を適用するとともに、広い振動・回転状態の選択的生成のための新しいNO生成法を探索して、NO+と炭化水素系分子が示すヒドリド移動反応実験に適用した。パルス放電法により、レーザー光イオン化法に比べて~5倍以上のイオンビーム強度が得られたとともに、パルス放電法の開発工程において、準安定He*ビームの生成条件を見つけることができた。静電場による衝突エネルギー制御を特徴とする本測定装置に対して、反応実験の新しい可能性を示す結果と位置づけられる。 状態選別NO+を生成する光イオン化法に対しては、亜硝酸メチル(CH3ONO)を前駆体とする光解離法との併用を行った。亜硝酸メチルの光解離反応によるNOは幅広い振動・回転(v, J)励起状態に生成するが、その分布を照射する解離光波長によって制御できることを明らかにした。320 - 390 nmのS0 - S1遷移を用いると、v = 0 - 4の比較的高い振動励起と、J = 10 - 50の中程度の回転励起を伴う量子状態に生成される一方で、200 - 240 nmのS0 - S2遷移による光解離では、低振動状態にJ = 30-90の超高回転励起したNOが生成されていた。異なる2つの吸収帯で生成されるNOの振動・回転スペクトル線を分光学的に帰属して、状態選別生成できるNO+の量子状態の範囲を大きく拡張させた。始状態が最低量子状態に制限される超音速NO分子線への光イオン化法と比較して、光解離法との併用でも同程度のイオンビーム強度が得られることを明らかにした。 パルス放電法とレーザー光イオン化法のそれぞれで生成したNO+と中性炭化水素とのイオンガイド反応実験を行い、エタノールおよびi-ペンタンを充填した反応セルの通過により、NO+ビームが減少する様子が観測できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた冷却セルは、分子イオンの生成と並進速度制御機構の開発を優先させたため、反応装置への導入まで至らなかった。一方で、パルス放電法の性能評価工程で、本実験装置の新しい可能性を見出すなど、計画に含まれていなかった成果が得られた。また、レーザー光イオン化法を光解離法と組み合わせて、状態選別生成できるイオン分子の種類を拡張することは、十分な生成効率が得られるかといった点に関して挑戦的開発課題と位置づけていたが、亜硝酸メチルを前駆体とするNO+生成実験に取り組んだことで、その定量的な基礎データが得られた。スピン微細構造を伴う多数の振動・回転線に対するスペクトル解析を行い、反応NO+分子の振動・回転状態依存性を解析するのに十分な範囲の量子状態への生成を確認することができた。ここで得られた生成手法・条件とイオンビーム強度の基準は、当初の研究計画で目標としている状態選別したCH3+分子ビームの発生源開発の重要な基礎となる。イオンビームの生成量と生成量子状態範囲をともに大きく増加させることができたが、並進エネルギーの抑制と緩衝気体の冷却機構は実現されていない。目標とした超低エネルギー反応条件には到達していないが、ここまでに実現したイオンビーム制御法を適用して、NO+と炭化水素系分子とのイオンガイド反応実験を行った。これらの状況から、計画全体の進捗状況としては概ね順調に進展している、と総合的に判断した。
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今後の研究の推進方策 |
緩衝ガス冷却法で前提とされるイオンビームの入射(並進)エネルギーの減速を目指て、各イオン源およびイオン電極群の開発とその性能評価計測を行っていた中で、パルス放電法の適用の新しい可能性を見出した。本実験装置の特徴であるレーザー光イオン化による状態選別イオンの生成法は、短時間・微小体積での光イオン発生のため、空間電荷効果によるイオン発散の抑制が最大の技術的課題であった。多波長イオン化法の導入や照射光形状の最適化を行い、光生成イオンビームの低速輸送と高強度化を両立する条件探索を進めてきたが、状態選別に不可欠なパルスレーザー光の性質は、当初計画の目標達成に対する大きな制約となっている。パルス放電法は、レーザー分光法を用いないので状態選別能を持たないが、イオンの生成は1 cm程度の大きさの領域において100マイクロ秒程度の間に行われることから、空間電荷効果の影響は小さい。 開発したパルス放電ノズルにより、安定して大強度イオンビームが得られた。またヘリウムをキャリアガスとした場合に、高い反応性を示す準安定He*ビーム源となることも明らかになった。これらのパルス放電法の利点を反応実験装置に活用するために、交差分子線配置を新しく研究計画に取り入れる。開発要素は、イオン合流法配置の電極のイメージング仕様への変更であり、散乱分布観測のための計測システムは研究室既存のものを充当する。当初計画のイオンガイド法とイオン合流法の開発も継続することとする。想定以上に進展があった項目については、計画を修正して新たな展開に結びつける方針で、イオン・分子反応研究を進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進める中で、パルス放電法によるイオン生成と、光解離法を併用した幅広い量子状態からの選択的光イオン化法に新たな知見が得られたため、当初予定していた冷却セルの導入よりも、これらを優先した。このため、冷却装置の設置のための費用の一部を次年度に持ち越した。
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