研究課題/領域番号 |
20K05434
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
鈴木 正 青山学院大学, 理工学部, 教授 (30251606)
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研究分担者 |
柏原 航 青山学院大学, 理工学部, 助教 (30836557)
磯崎 輔 桜美林大学, リベラルアーツ学群, 准教授 (00520397)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | チオ核酸塩基 / 励起状態 / 一重項酸素 / 項間交差 / 細胞毒性 / 光線力学療法 / 増感剤 |
研究実績の概要 |
DNAの構成要素である通常核酸塩基に硫黄原子を導入したチオ核酸塩基は、通常核酸塩基にはない特徴をもつ。チオ核酸塩基は、通常核酸塩基が吸収しない近紫外に吸収帯をもち、また生体親和性が高く容易に細胞内に取り込ませることができる。チオ核酸塩基を取り込んだ細胞に弱い紫外光を照射することによりアポトーシスを誘起できることが報告され、チオ核酸塩基の光線力学療法への応用が期待されている。本研究では、π共役系を拡張したチオ核酸塩基誘導体を新規に合成し、光照射による反応機構を明らかにするとともに、励起状態と反応性の解明を目的としている。 今年度は、ウリジンにフェニル基を導入した5-phenylethynyl-4-thio-2'-deoxyuridine (da5PE4TdUrd)の新規合成を試み成功した。また、その励起状態について調べた。da5PE4TdUrdはチオピリミジン誘導体の中で最も長波長領域に吸収帯をもつことがわかった。蛍光量子収率はこれまでのチオ核酸塩基より100倍程度大きく、また項間交差が主な緩和過程であることが示された。励起三重項状態の寿命は最も長いこともわかった。da5PE4TdUrdの一重項酸素生成量子収率も高く、これは癌細胞のような低酸素環境下において最も高い値であることがわかった。さらに、癌細胞にda5PE4TdUrdを投与し、紫外光を照射すると細胞死が誘発されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
π共役系を拡張したチオ核酸塩基誘導体であるウリジンにフェニル基を導入した5-phenylethynyl-4-thio-2'-deoxyuridine (da5PE4TdUrd)の新規合成に成功した。また、励起状態の特徴と緩和過程について知見を得ることができた。さらに、da5PE4TdUrdをガン細胞に投与した細胞実験から、光照射による細胞死を誘発することも明らかとなった。研究はほぼ予定通り進んでいる。 当研究室で開発した光検出光音響法に近赤外OPOレーザーを組み込み、チオ核酸塩基誘導体の非共鳴二光子レーザー励起スペクトルの測定準備を進めている。組織浸透性に優れる長波長の光、特に近赤外光による非共鳴二光子励起の可能性を探る用意ができている。
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今後の研究の推進方策 |
組織浸透性に優れる長波長の光、特に近赤外光による非共鳴二光子励起の可能性を探るため、当研究室で開発した「高感度光検出光音響分光法」を用いて、新規合成したチオ核酸塩基の二光子吸収スペクトルの測定を行う。 また並行して、合成に成功した5-phenylethynyl-4-thio-2'-deoxyuridine (da5PE4TdUrd)に置換基を導入した化合物の合成を試み、その励起状態についても調べる。さらにπ共役系を拡張したチオ核酸塩基の合成についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
近赤外OPOレーザーの購入金額が当初の予定よりも若干低価格になったため、差額が生じた。この差額分で研究を推進するための試薬の購入を予定している。
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