研究実績の概要 |
チオ置換核酸塩基は、通常核酸塩基に類似した構造をもつため生体親和性が高く容易に細胞に取り込まれることが知られている。一方、チオ核酸塩基を取り込んだ細胞に近紫外光を照射するとアポトーシスが誘導され、新しい光線力学療法の増感剤として期待されている。本研究では、様々な置換基を導入してπ共役系を拡張したチオ核酸塩基誘導体を新規に合成し、その励起状態の特性と反応性について解明することを目的とし、また非共鳴二光子吸収によって、細胞透過性の高い近赤外光による非共鳴二光子励起光線力学療法の可能性を検討した。 抗がん剤として用いられてきた5-fluorouracilをチオ化した5-fluoro-4-thiouridine、π共役系を拡張するためウリジンにフェニルエチニル基を導入した5-phenylethynyl-4-thio-2'-deoxyuridineの合成を行い、その光化学特性を調べ報告した(Photochem. Photobiol., 2024, 100, 434-442. J. Phys. Chem. A, 2021, 125, 597-606.)。また、チエノピリミジン骨格を持つ新規ヌクレオシドの合成にも成功し、光化学特性について知見を得た。これらの核酸塩基誘導体は、高い一重項酸素生成量子収率を有し、細胞実験の結果からも増感剤として高いポテンシャルを有することが分かった。 近赤外の波長領域に拡張した二光子吸収スペクトル測定装置の開発を行い(Chem. Phys. Lett., 2024, 839, 141136.)、非共鳴二光子励起によるケモセラピーへの応用の可能性について検討した。チオ置換核酸塩基誘導体の二光子吸収スペクトルの測定、およびシミュレーションから、その可能性が十分あることを見出した。
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