研究課題
本研究では表面増強ラマン散乱(SERS)スペクトルと単分子電流計測の融合により,電子輸送特性と振動分光による分子認識法の開発を目的としている.初年度である本年度は計測環境の整備と同時に単分子接合におけるSERS観測の上で重要なSERSの増強機構に関して電流・電圧計測を活用した機構解明を試みた.種々の分子接合について架橋構造と増強効果についての知見の収拾を行った.中でもC60分子では以下に示すように相互作用に依存したSERSの観測頻度に関する成果を得ることができた.微細加工により作製した金のナノ電極構造を用い,室温大気中においてMechanically controllable break junction(MCBJ)法によりC60分子接合の作製を試みた.MCBJ法では機械的に基板を押し曲げることにより,基板上の作製した電極を破断させ,電極の中心部分にナノギャップを作製する.本研究では電極上に分子を吸着させた状態で接合の作製を試みた.単分子接合の電気伝導度に対応する数 mG0(G0は77.5 μSに対応する)の電気伝導度を確認しSERS計測を行った所,C60に特有な振動モードが観測されC60分子の存在が確認された.この際,バルク状態では観測されない振動モードも観測され,SERSに固有なスペクトルを得た.電流-電圧曲線の解析により金属の電子状態と分子軌道との重なりに由来する因子の評価を行い,ラマンシフトとの関係を調べたところ,金属-分子間の相互作用が大きい場合によりラマンシフトが低波数側にシフトすることが分かった.この結果は電極間に架橋した分子の相互作用変化により,C60分子の結合次数が変化したことに由来していると解釈することができる.更に相互作用の大きさが単分子接合におけるSERSの観測に影響を与えることが分かった.
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要で述べたように,まず電流-電圧計測を活用し種々の単分子接合における局所構造とSERSスペクトルの強度及びラマンシフトの関係性を調査した.SERS計測に基づき分子接合形成時におけるSERS強度やピークの出現に関して基礎的な知見を得ることができた.また本研究で目指す環境・電子状態を制御した分子接合の作製に関連して,溶液中における分子接合の作製と電気化学電位を変調させた分子接合の作製を開始した.今後,体系的に単分子接合の電気伝導度に対する架橋構造を解析するために,電気化学電位制御下における電気伝導度計測とSERS計測の融合を行う必要があるが,本年度バイポテンショスタットを用いた印加電圧制御と同時計測システムの構築することにより計測を可能となる.以上の通り,単分子接合の計測による局所構造を特定したSERS観測によるSERS増強機構の知見の収拾と環境及び電子状態を規定した分子接合の作製の振動スペクトル観測に向けた計測系の構築が行われているため,おおむね順調に研究が進行しているといえる.
昨年度に引き続き振動スぺクトルによる分子検出法の実現にむけ,環境制御下における単分子接合の架橋構造及び電子状態を規定したSERSスペクトル計測を行う.昨年度までの研究成果により,金属-分子間の相互作用がSERS観測に影響を与える事を示唆する結果が得られた.そこで本年度は局所的な架橋箇所の影響がSERS観測にどのような影響を与えるかを調べるため,架橋点を複数持つ分子を用いた単分子接合の作製とそのSERS計測を行う.単分子接合における分子の架橋箇所のSERSスペクトル依存性を観測し,分子と金属電極の接続点がスぺクトル形状に与える影響を明らかにする.また実験環境を整備したSERS計測に関して,電気化学電位を制御した単分子接合におけるSERS計測に着手する.昨年度構築した単分子接合における電気化学電位を制御した電気伝導度計測システムに改良を加え,電気化学電位を制御した単分子SERS計測システムを構築する.電気化学電位を制御することにより電極表面における分子配向や電子状態を制御し,単分子接合中における分子の架橋構造及び電子状態を規定したSERS観測を行い架橋分子の状態と関連付けられたSERS信号の取得を通して,単分子接合におけるSERSスペクトルを解釈する.
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) 備考 (2件)
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