研究実績の概要 |
近年、精力的に高エントロピー材料の物質開発が進む中、本研究では研究例のほとんどない金属カルコゲナイドに着目した。研究の目的は、「高エントロピーカルコゲナイドを高圧法により新たに合成し、その機能を開拓すること」である。従来、硫化物やセレン化物は石英封入法で合成されることが多かったが、組成ずれ起こす可能性があり、また、非平衡相の高エントロピー物質を高温から急冷することも難しい。その点、高圧法は、融点が比較的低く蒸散しやすい硫黄やセレンを閉鎖的空間で反応させ、かつ急冷することが可能である点で優れている。 研究は計画に従い、キュービックアンビル型高温高圧合成装置により, 金属二硫化物MS2 (Mは、以下の4-6種の金属をサイトに等量含む。Mn,Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ru, Rh,Cd,Pd)、及び金属二セレン化物MSe2 (Mn,Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ru, Rh, Cd, Pd) を合成した。いずれも狙いとする結晶構造はAX2の典型的な構造の一種であるパイライト型である。MS2では、Mが4種類および5種類の金属において、単一相のパイライト型の化合物が得られた。また、MSe2でも、複数の組み合わせの5種の金属において単一相のパイライト型の化合物が得られた。これらは、元来、常圧ではパイライト型を示さない硫化物やセレン化物の金属を含むもので、狙い通り高エントロピー効果により安定化がなされたと考えられる。 個々の試料は、電子顕微鏡による組織観察で粒子の形状や大きさを判定し、また、X線検出器で組成分析を行い、より均一な試料合成へとフィードバックをかけている。同時に、結晶構造解析および電気的および磁気的物性の測定も進めており、これらの新しい高エントロピーカルコゲナイドの特徴が明確になりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、計画に通り、キュービックアンビル型高温高圧合成装置により, 金属二硫化物MS2 (Mは、以下の4-6種の金属をサイトに等量含む。Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ru)、及び金属二セレン化物MSe2 (Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ru, Rh, Cd) を合成した。いずれも狙いとする結晶構造はAX2の典型的な構造の一種であるパイライト型である。MS2では、M:Fe, Co, Ni, Cu, Ruにおいて、単一相のパイライト型の化合物が得られた。また、MSe2でも、M:Fe, Co, Ni, Cu, RuまたはPdにおいて単一相のパイライト型の化合物が得られた。これらは、元来、常圧ではパイライト型を示さない硫化物やセレン化物の金属を含むもので、狙い通り高エントロピー効果により安定化がなされたと考えられる。 個々の試料は、電子顕微鏡による組織観察で、不純物の有無、反応の均一性、粒子の形状や大きさを観察し、また、一部は、X線分析検出器で組成分析を行い、より均一な試料を得るためにフィードバックをかけている。さらに、電気的および磁気的物性の測定も進めており、単一金属の二硫化物、二セレン化物では、見いだせない磁性が現れている。 現在、コロナ禍にもかかわらず、研究の滑り出しは概ね順調で、本研究に関わる大学院生も非常に熱心に実験に取り組んでいる。また、実験環境や実験装置にも大きな問題はない。
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